おたまの日記

都内で働く二児の母(東大法学部卒)が、子育てしながら考えたことや読んだ本、お勧めしたいことを書いてます。

「限界から始まる」往復書簡を読みました。お勧めしてくれた人、ありがとう

限界から始まる』という本を読みました。

上野千鶴子さんと鈴木涼美さんの往復書簡を本にしたものです。

ご存知ない方のために説明すると、

上野千鶴子さんは1948年生まれ、東大名誉教授、ジェンダー研究の第一人者。

鈴木涼美さんは1983年生まれ、元AV女優、元日経新聞記者。

です。

 

いったいなぜこの本が家にあるのか思い出せず、たぶん誰かにオススメされてとりあえず買ったものの積んだままになっていた本でした。

(我が家にはそういう積読本がたくさんあります…オススメしてくれた人ごめんなさい!)

 

この本を読み始めたきっかけ

先日「叱る依存がとまらない」の著者である村中直人さんがAbema TVに出演されるというので初めてAbema TVを観たんですが、そこに鈴木涼美さんが出演されていました。私は正直に言えばAbema TVの話の進め方が苦手で、もっと村中さんが話す時間を長くとってくれればいいのに…と思いながら見ていました。私が普段NHKばかり見ているせいもあると思います。

※「叱る依存」については下記のブログで書いてます

www.shiratamaotama.com

そして鈴木涼美さんの話し方も苦手でした。鈴木さんの発言はそんなに長くなかったのですが、私の苦手なタイプの女性だな…と感じました。なにに苦手を感じたか頑張って言語化するなら…あえて品性に欠けた態度を演じているというか、女を前面に出すことを求められていてそれに応えているというか、そんな感じ。

番組を見終えて「鈴木涼美さんの名前、どこかで見たな」と思って本棚を探したら、この本を見つけました。

あの女性と、上野千鶴子さんが、共著で本を出している…??

なんの本なんだろう…?

と気になったのでとりあえず読み始めたのですが、まあこれがとんでもない本でした。

 

知的な刺激に満ちた本

上野さんも鈴木さんも、これまで人に話したことはないだろうことを遠慮なく暴いていくスタイルです。読みながら私も流れ弾に被弾して「うっ」となること複数回。

上野さんはバッサリと相手を斬ってから塗り薬を手渡してくる剣豪のようでした。鈴木さんは何度斬られても立ち上がる。

読み始めたら面白くて手が止まらず、一気に読んでしまいました。これお二人の筆力もすごいけど、きっと編集者の方もすごいんですね。

 

「上野さんは、なぜ男に絶望せずにいられるのですか? 」
女の新しい道を作った稀代のフェミニストと、その道で女の自由を満喫した気鋭の作家が限界まできた男と女の構造を率直に、真摯に、大胆に、解体する。

「しょせん男なんて」と言う気は、わたしにはありません。――上野

Amazonサイトより引用)

 

印象的だったフレーズは例えば「聡明な母を持った娘の不幸」「痛いものは痛い、とおっしゃい」そして「両親を失ったとき、わたしはわたしがただ存在するだけで喜んでくれるひとたちを決定的に失った」など。あと「大量のプチ山口敬之やプチ佐々木宏やプチ森喜朗に日々出会う中、…(中略)身も心も疲弊するし、」という一文からにじみ出る徒労感がすごかった。

 

TVで見た鈴木さんと、この本の中にいる鈴木さんのギャップが激しくて衝撃を受けました。

鈴木さんは人に「可哀そう」と言われるのを嫌うだろうと思いつつ、このブログがご本人の目に触れないことを願いつつ、私は鈴木さんのことを可哀そうだと思います。これほどの文章で上野千鶴子さんと一年間の往復書簡を続けられる知的な女性が、さまざまな背景があったにせよ、ブルセラ少女として、援助交際の当事者として、そしてAV女優として、心身に無数の傷を負い、男性に絶望してしまったことを、可哀そうだと思います。

 

男性への絶望

私は鈴木さんより5歳下ですが、実はブルセラのなんたるかはこの本を読んで初めて知りました。私が女子高生だった頃、「うちの高校の制服を買い集めている男性がいるらしい」と聞いたことはありましたが、制服を買って何に使うのか深く考えたことはありませんでした。知らないままこの歳まで生きてきたことを幸いだと思います。高校生の頃の私がその詳細を知ってしまったら、もしくは鈴木さんのようにその詳細を目の前で繰り返し見てしまったら、私も男性を一般化して絶望したのかもしれないと思います。私は鈴木さんのような経験をしないままに、男性一般に絶望することなく、個別の男性と恋愛したり、個別の男性を尊敬したり、個別の男性と友人になったりしてきたことを幸いだと思いました。

そして上野さんは男性に絶望していない。「『しょせん男なんて』と言う気は、わたしにはありません。」と言い切っています。男にも女にも高潔な人も卑劣な人もいるし、同じ人格のうちにも高潔なところも卑劣なところもあるでしょう、と。

上野さんが尊敬する男性の例として中村哲さんと霜山徳爾さんの名前を挙げられています。中村哲さんはアフガニスタンで用水路をつくった医師として有名ですが、私は霜山徳爾さんのお名前は初めて知りました。検索してみたら霜山さんは高名な臨床心理学者で、さらに『夜と霧』の訳者だそうです。「夜と霧」、大学生の頃に挑戦したものの辛すぎて読み進められず中途半端になってるんですが、もう一度挑戦しようかな…。

 

女の分類

鈴木さんは「女と肩を並べたり女に教わったりしながら働くことに慣れてきた今の男性たちは、尊敬の対象(先生や同僚)、庇護の対象(妻や娘)、性の対象(娼婦や愛人)というように、女性をシンプルに3種類に分けて認識しているような印象」と書かれました。

それに対して上野さんは、「これまで男による女の『用途別使い分け』には、性の二重基準からくる生殖向き女(妻・母)か快楽向き女(娼婦・愛人)か、この2種類しかないという『常識』が通用してい」たのに、ついに現代では3種類目の「『同僚(上司や部下を含む)としての女』が登場したんですね!」と感嘆されています。

 

私はこのいずれも今ひとつ共感できなくて、それは私の思考が浅いせいなのかもしれませんが、具体的な男性(友人、知人、家族)を思い浮かべて「彼は私をどの分類にいれているだろうか?」と想像してみても、上記の分類にシンプルに当てはまるとはどうしても思えないのです。夫は私を「庇護の対象」として見ているのか???(違う気がする)、パパ友のAさんは私を「尊敬の対象」として見ているのか???(違う気がする)、弟にとっての私は???大学の恩師にとっての私は???と。

また、「女性は男性をどう分類しているのか」にはこの本では触れられていませんでしたが、同じように「生殖向き男」「快楽向き男」「同僚」に分けるんですかね。また別の分け方があるのか、はたまた女性は男性を分類していないのか。

これは私の宿題として、いったん思考を棚上げすることにします。

 

女友達

この本から得た一番の希望は、上野さんが書かれた女友達についての真理でした。

・一時的に出産や子育てで女友達との距離が離れても、子どもの手が離れればまた関係性は戻ってくる

・歳をとってからも友達はできる(若いうちにしか生涯の友はできない、というのは間違っている)

・年に一度も会うことがなくても、知己は知己。

子育てで自由に動けなくなったことに加えてこのコロナ禍で「女友達と会う」機会が激減してしまった私には、上野さんの話は光明のように感じられました。

 

上野さんが「わたしの友人の女性たちは、子持ちの既婚者が圧倒的に多かったけれど、わたしには夫の話も子どもの話もめったにしませんでした。おひとりさまのわたしに対する遠慮や忖度があったのでしょうか」と書かれています。

これを読んで思い出したのが、少し前に友達(女性1人、男性1人)と3人でランチをしたときに「おたまは子持ちなのに全然子どもの話をしないね」と言われたことです。言われてみればそうだなと思ったのですが、それは私が独身の友人2人に「遠慮や忖度」をして子どもの話をしなかったわけではなく、単純にもっと話したいこと/聞きたいことがほかにあったからでした。もう少し深堀するなら、あの友人たちの前では私は妻でもなく母でもなく、ひとりの「おたま」という人間として在ったのだろうと思います。家庭内の役割からいっとき自由になって友人と話をする時間は私にとって本当に楽しく貴重でした。

友人のありがたみを感じれば感じるほど、どうかみんな健康で長生きしてほしい…と祈るような気持ちになります。そして今後私がもっと成熟した大人の女性になったとき、上野さんの言うような「年齢を重ねてから親しくなった友人」を新たに得られるのも楽しみにしています。

 

蛇足:「先生」と書かなかった理由

これは蛇足ですが、私は普段ならブログ内で上野千鶴子さんを「上野先生」と書いたと思います。大学の教授なので。

でも上野さんがこの本の初めの方で鈴木さんに対して「『先生』と呼ばれるのはごかんべんください。あなたの『先生』であったことは一度もありませんから。」と書かれているのを読んでしまったので、私も上野先生とは書いてはいけないような心持ちになりまして…。このブログでは「上野さん」で統一しました。

 

おしまい

一気読みした本について一気にブログを書いたので、まとまりがないうえに長めのブログになってしまいました。

積読本のなかにこんな面白い本が埋まっていたとは…。

ほかの積読本も少しずつ山を崩していきたいです(とはいえ、読むペースより買うペースが早いので山は高くなる一方なのですが)。

 

※もしこの『限界から始まる』をおたまに推薦した記憶がある!という方がいらしたら教えて下さい。ほんと感謝してます。忘れてごめん。

 

【追記】

推薦者、あっという間に判明しました。大学時代の友人でした。

以前、私に「OPTION B」をオススメしてくれたのと同じ人です。彼女は本当に私への本の勧め方がうまい。選書センスが良すぎて嫉妬するレベルです。

OPTION Bを読んだときに書いたブログは下記です。

www.shiratamaotama.com

 

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