おたまの日記

都内で働く二児の母(東大法学部卒)が、子育てしながら考えたことや読んだ本、お勧めしたいことを書いてます。

痴漢について個人的に思い出すこと、思うこと

ひとつ前のブログで、「思い出したくないことをたくさん思い出しました」と書きました。思い出してしまったので、せっかくだから書けるものは書こうかなと思いました。

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なぜこんなことを書こうと思ったのか

このブログ記事の主旨は、

・痴漢被害についてこれまで関心のなかった男性に、「自分の身近な女性もこうした被害を経験しているかもしれない」「これから経験するのかもしれない」と感じてもらうことで、痴漢撲滅の闘いの仲間を増やしたい

・痴漢被害を経験した女性に、「私だけじゃなかったんだな」と思ってもらいたい

・女性一般に、痴漢被害を共有することで「こういうシチュエーションに気を付けよう」と思ってもらいたい

というところです。

※ひとつ前のブログにも書いた通り、痴漢加害者は男性とは限らないし、被害者は女性とは限りません。ただ、私の個人的な痴漢被害経験の加害者が100%男性なので(そして私が女性なので)、ここではそれを前提に書いています

 

自慢ではありません

すごく昔ですが、男友達に痴漢について話したところ、「それってモテ自慢なの?」と(たぶん悪気なく)言われたことがありました。「痴漢被害にあうというのは女性として魅力的だということ」という論理のようですが、これはちょっと誤解があると思います。『男が痴漢になる理由』にも書かれていますが、痴漢加害者は性欲というよりも支配欲や優越感を満たしストレスを解消するために痴漢行為を行っています。そして逮捕されたくはないので、痴漢の対象は「抵抗してこなさそうな気の弱そうな女」ということになります。

私にとって痴漢にあうというのは、「なめられている」「見下されている」「弱そうだと思われている」という意味です。

 

電車内で痴漢にあう

典型的には、混雑している電車内でおしりを触られる、というものです。たまに痴漢防止ポスターで「きゃ!痴漢!」のようなセリフが書かれていることがありますが、ちょっと私の経験とは異なるなと感じています。

実際は痴漢する側も「痴漢して大丈夫な女かどうか」見極めながら痴漢行為の強度を強めていくので、被害者視点としては

①おしりに違和感を感じるが、痴漢かどうか自信が無い

②振り返ってみたり、姿勢を変えてみたり、あいだにバッグをはさんでみたりして、「ただぶつかっただけなのか、意図的に触っているのか」確認する

③それでも触り続けている場合に、痴漢だと確信する

④声をあげるか、加害者の手をつかむか、写真を撮るべきか、逃げるべきか、悩む

⑤何か行動する(行動できない場合もある)

という感じです。だから私は「きゃ!」という声をあげたことはありません。声を出すとしたら、「やめてください」「さわりましたよね」「次の駅でおりてください」「駅員さんのところにいきますか」のようなセリフでした。ただ、「やめてください」といった場合の加害者の反応は「何言ってるんだ、ふざけるな」「何もしてないのに言いがかりだ」という感じですし、周囲も特に助けてはくれないことが多かったので、こうした発言は結構勇気がいります。それでも頑張ったことはあります。

痴漢に反論されるのに疲れてしまって「すいませんが手が当たっているようです」という穏当なセリフを言ったこともあります(こんな穏当なセリフであっても、周囲の人にも聞こえる声量で言うことで、少なくとも痴漢行為はやめさせられます)。

股間を押し付けてくる/自分で股間を触っているところを見せてくるというパターンもありましたが、「すいませんが気まずいので離れますね」と言ってから周囲の人に「すいません、ちょっと移動させてください」と声をかけて逃げました。痴漢は目立ちたくないので、とにかく声を出して周囲の注目を集めることで、痴漢行為の継続は無くなると思います。万が一わざとではなく股間を押し付けてしまっていた場合にも、このセリフなら傷つけないかな…とか。なんで私がこんなに気を遣わなきゃいけないのかな…。

 

電車以外の場所での痴漢

私が電車以外の場所で最も痴漢被害にあったのは書店と図書館です。これはたんに私の訪問頻度&滞在時間が多いからという理由と、「人は何かに気を取られているときに痴漢被害にあいやすい」という理由があるようです。(これは1月23日放送のNHKクローズアップ現代でも言及されていました:データが浮き彫りに!知られざる痴漢被害の実態 - NHK クローズアップ現代+

例えば本棚の前で本を読んでいるときに突然体を触られて、驚いて振り向くと男性が急ぎ足で逃げていく、という感じです。

 

エレベータの中

例えば東大の本郷キャンパスの文学部図書館のエレベータ内で、初対面の白人男性に壁に押さえつけられてキスをされたことがあります。ただただびっくり、そして恐怖、という感じでした。「君の家にいきたい」と言われたので断りましたが、そのあとずっと後をついてくるので困り果てました。結局、私がもともと行く予定だった某企業の就活説明会に予定通り参加しましたが、この白人男性は電車にのってもついてきて、企業のエントランスまでついてきたので、警備員さんに事情を話して助けてもらいました。後から考えれば、本郷三丁目から電車に乗る前に交番があったので交番で助けてもらえばよかったと思うのですが、当時は半ばパニック状態だったのでそこまで頭が回りませんでした。

 

ホテル

欧州のそれなりのグレードのホテルに出張で泊まり、ひとりで朝食を食べ終えて部屋に戻りました。自室のドアのカギを開けて部屋に入りドアを閉めようとしたところ、白人男性が私の部屋のドアを外からつかんで開けました。私の部屋はホテルの廊下の奥まったところにあり、大声をあげても誰にも気づかれなさそうだな、やばいな、と思いました。かつ、白人男性が大きいので、力ではかなわないだろうし、どうしよう…と思いました。”Are you single?”と聞かれたので”No”と答え左手薬指の指輪を見せたところ、諦めてドアから手を離してくれました。

体に触られたわけではないので痴漢と呼ぶのは不適かもしれませんが、私はこの件でかなり恐怖を感じたので、それ以降はホテルの部屋のカギを開ける前に念入りに廊下をキョロキョロするようになりました。

 

痴漢ではなく不倫に誘われた話

相手が既婚男性だったので油断していた、という話です。痴漢について考えていたら思い出してしまったのでついでに書きます。

ひとつめは卒業旅行中に知り合ったドイツ人のおじいさんで、孫娘も日本に興味があるから会ってくれないかというので家に行ったら家族は全員外出中。明確にベッドに誘われたということがありました。相手が高齢なので私が油断していたといえばそれまでなのですが、「誤解させたとしたらすいませんが、私はあなたと性的な関係になるつもりはありません」といったら諦めてくれました。

ふたつめは日本人ですが、出張先でお世話になった人が「渡し忘れた資料がある」と強引に来たのでホテルの部屋にうっかり入れてしまったところ、「妻とはうまくいってない。さみしい」と言われました。いやいやいや、知らんがな。部屋から出て行ってもらうのに大変苦労しました。

あまりに当然すぎる教訓ですが、たとえ相手が既婚男性であっても、高齢であっても、部屋でふたりきりになってはいけないという教訓を得ました。そして部屋に入るまでは男性側も「性的なことをするつもりは全くない」という顔をしているので、ここで断ったら警戒しすぎで失礼かな…という雰囲気にさせられがちですが、部屋に入ったあとで断るともっと気まずくなるので、とにかく部屋に入れないことが大事だと思います。。「誰かに変な誤解をされると困るので、外でお話しましょう」と言い続けるしかないのかな。

 

ちょっと脱線しすぎたので話を痴漢に戻します。

トルコ人女性に「I'm sorry」といわれた

イスタンブールで混雑したバスに乗っていて、トルコ人の男性から痴漢行為をされたことがあります。結構な強度だったので私は泣き叫んだというか泣きわめいたんですが、犯人と思われる男性はニヤニヤしたままでした。同じバスに乗っていた見知らぬトルコ人女性が自分の隣の席に座らせてくれて、「I'm sorry」と言ってくれました。これは文字だけだと謝罪なのか同情なのか分かりませんが、私は「ごめんね」という謝罪のように受け取りました。自分の国の男性があなたにこんなことをして申し訳ない、という気持ちなのかなと。

男が痴漢になる理由』p24に「世界に知られる『Chikan大国・日本』」という節があります。日本を訪れた外国人女性が痴漢被害にあったら、私はあの時のトルコ人女性と同じように「自分の国の男性があなたにこんなことをして申し訳ない」と思うだろうな…と思っています。満員電車に乗らざるを得ない社会で申し訳ない。痴漢大国といわれる状況を放置していて申し訳ないです。

また、30代女性として、10代や20代の日本人女性に対しても「申し訳ない」という気持ちを持っています。私の世代までで解決しなかったせいであなたにこんな思いをさせて申し訳ないです。

 

私が無事なのは運が良かっただけ

「無事」の定義にもよるとは思いますが、少なくとも私は今、健康に生きているし、強姦被害を経験したこともないし、痴漢のトラウマで電車に乗れなくなったこともない、という意味で「無事」です。

痴漢被害が原因となって電車に乗れなくなった、通学や通勤ができなくなった、失職した、社会生活を送ることが困難になった……という女性は、表に出てこないだけで大勢います。(『男が痴漢になる理由』p26より引用)

そして、深刻な性被害を受けた女性の話を見聞きするにつけ、彼女たちと私のあいだには何も違いはないと感じます。服装とか態度とか、事前にどのくらい気を付けていたか、とか、そういう観点での違いは本当に何もありません。ただ、私は運が良かっただけなんだと思います。トラウマになるほどの頻度/強度で痴漢行為をする人のターゲットに、たまたま私はならなかっただけ。私に合意無く「迫った」男性たちはみな、「やめてください」と言えばやめてくれる人だった、というだけです。飲み物に薬を入れられたこともありません。

だから私は性犯罪の被害者に対して落ち度を追求する言論が苦手です。「こんな時間に」「こんな場所に」「ひとりで」「こんな格好で」「油断していたから」「ちゃんと抵抗しなかったから」というあらゆる言葉に、勝手に自分も傷ついています。人間なので油断することもあるし失敗することもあるし、どうかそれで被害者を責めないでほしい、と思っています。

 

私が電車内で痴漢を目撃したら

見てみぬふりをしない、といっても具体的に何ができるか改めて考えました。私にできそうなのはこんなところ。

・110番通報する、駅員を呼ぶ(参照:神奈川県警

・痴漢被害者に「場所を代わりましょうか」と申し出る(実践した男性もいます:『男でも怖い』 それでも、痴漢を目撃した男性は「行動」を起こした | BUZZmag

・痴漢に対して「あなたの前のお姉さん、迷惑そうだから少し離れてあげたら?」と言う(参照:Twitter

・犯行現場を動画や写真で撮影して証拠を残す→警察に提供する

・(周囲の男性が痴漢を確保して警察に連れて行く場合には)被害者に寄り添い、警察まで同行する

私は腕力がないので自分自身が痴漢を確保して警察まで連れて行く自信がないのですが、もし男性の方で「痴漢を確保するのに協力したい」と言う方には、下記のTweet群が参考になるかもしれません。クリックすれば全文読めます。

第三者(目撃者)として痴漢や盗撮犯を捕まえて警察に同行すると、調書や再現で2時間程度拘束されるようです(もちろん状況により時間の長さは変わり得ます)。仕事や学校があると躊躇してしまうと思いますが、今後もしも私が第三者として痴漢を目撃したら、命に関わる用事がない限りは2時間くらいは喜んで差し出そうと思っています。

私は就職活動の頃に「日本や世界のためになる仕事がしたい」と真剣に思っていました。今も思っています。だからもちろん仕事は大事なんですが、自分の2時間で被害者の人生を救えて、日本社会から痴漢を撲滅する手助けができて、そしてもしかしたら加害者の人生も救うことができるとしたら、こんなにも価値がある2時間は仕事でもなかなか無いぞと思います。

そして、このブログを読んでくれた人もそう思ってくれると良いなと思っています。

 

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