おたまの日記

都内で働く二児の母(東大法学部卒)が、子育てしながら考えたことや読んだ本、お勧めしたいことを書いてます。

「叱る依存」の本がとても良かったです

村中直人著『〈叱る依存〉がとまらない』を読みました。これは年に一回くらい読み返したい本だなと思っています。

 

私は「怒る」はダメだけど「叱る」は良いと思っていました

今まで私は、

・怒る:自分の感情を発散すること

・叱る:相手のためを思って教育すること

と整理して理解していました。子供が何か悪いことをした時には「怒らずに叱る」ことを意識してきました。(もちろん私も人間なので感情的に怒ってしまったこともあります)

 

ところが、この本では、

・「怒ってはダメだが、叱るのは必要」「怒ると叱るをきちんと区別することが必要」などの説明にはほとんど意味がない

・叱られる側にとっては、怒られようが叱られようが、強いネガティブ感情が生じる点で、叱られる側の体験に大きな違いはない

と明言されています。

 

そして、「『叱る』には依存性があり、エスカレートしていく可能性がある」ことが臨床心理学的な知見から丁寧に解説されています。

ショックでした。

 

「叱る」の本質

「叱る」行為には本質的な特徴として攻撃性があり、受け手側にはネガティブな感情体験が必ず生じるということ。(ネガティブ感情を伴わないなら、「叱る」ではなく「説明する」「説得する」などの言葉で言い換え可能)

叱られてネガティブ感情が引き起こされた時、人間は防御システムが活性化されて「戦うか、逃げるか」(闘争・逃走反応)モードに入ってしまい、学びや成長にはつながらないということ。※多くの場合、叱られた部下や子供は「逃げる」を選択する(例:「なんとかしてこの嫌な時間を早く終わらせたい」のでとりあえず謝る)

人間には「処罰欲求」があり、「悪いことをした人に罰を与える」「他者に苦痛を与える」ことで処罰感情を充足させることに快感を感じること。(SNSでの炎上も、傍観者の処罰感情の暴走という側面がある)

 

ああ、私は「叱る」についてこんなに深く考えたことがなかったな…と思いました。

確かに自分が「叱られる」立場にある時に、「戦うか、逃げるか」モードに入ってしまうというのはよくわかります。

そして自分が「叱る」立場にある時に、「処罰感情の充足」により快感を感じている、と言われれば…ああそうなのかもしれない、と思います。

 

 

ちなみに、どんな時も絶対に叱ってはいけないとは書かれていません。

「叱る」に効果がある場合

・危機介入(命の危険がある場合や、誰かに危害が及んでしまう場合などに、その行動をすみやかにやめてもらう)

これはとても納得しました。子どもが車道に飛び出しそうになったら「止まりなさい!」と怒鳴ることで子どもの足が止まる、というイメージです。そして子どもの足が止まったら、それ以上叱り続ける意味はないので、「上手に叱り終わる」必要があります。

※本書にはもう一つ「抑止力」という効果についても触れられていますので、関心がある方はぜひ読んでみてください

 

本書を通して読んだことで、「叱る」という行為の効果が非常に限定的であること、「叱る」には依存性があり誰もが「叱る依存」の落とし穴にはまるリスクがあること、そして「叱る側」「叱られる側」双方に慣れが生じて「叱る」がエスカレートしてしまいがちであることを、深く納得することができました。

 

特に子どもが小さいうちは家庭内で「親」は絶対的な権力者なので、「叱る依存に陥るリスクがある」と意識しておくのは大事だなと思います。

 

とても優しい書き方

著者の村中直人さんは臨床心理士・公認心理師とのことですが、この本の文章は色んな人に配慮していてとても優しいなと思いました。

例えばこの本を読んで「いや、叱るは必要だ。私は叱られて強くなれた」と感じる人がいたとしてもその経験や感情は否定せず、そっと生存者バイアスの可能性を提示したり。犯罪被害者の「処罰感情の充足」が守られるべき権利であることを前提にしつつ、傍観者の「処罰感情の充足」のために厳罰化してはいけないと提起したり。「叱ってしまう自分」に悩むあまり、「叱る自分を叱る」という落とし穴にはまらないでくださいねとアドバイスしたり。

 

そして、もし深刻な「叱る依存」に陥っている場合には専門家に頼る方法もありますよ…という箇所の「ただし書き」が最高だったのでちょっとだけ引用します。

ただし、もしその「専門家」が、あなたのことを「叱る」人だったら、そのときはすぐにその人から離れてください。本物の専門家はあなたのことを叱ったりしません。

(『〈叱る依存〉がとまらない』p195より引用)

思わず「おお…」と声が出てしまいました。

 

また読み返すと思います

私はこれまで「怒るはダメだけど叱るは良いこと」と思って生きてきたので、なかなかすぐに考え方や行動を変えることはできないと思います。

本書の最後には「叱る依存」に落ちいらないための具体的なアドバイスが書かれていて、大変勉強になりました。

この本をたまに読み返しながら生きていこうと思っています。

 

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