杉山亮著『子どものことを子どもにきく』を読みました。
1996年に出版された古い本ですが、Amazonのレビューが絶賛の嵐なので是非読んでみてください。
3歳から10歳まで,父親が息子に年に1回試みた全8回のインタビュー記録と,親が考えたこと.低い視線からとらえた世界の不思議,ユニークな発想,深い内容をそなえた思想(?).幼児から少年にかけての成長の姿が,子ども自身のキラメク言葉で,語られた.なぜ大人は子どもに子どものことをきかないのか.
(Amazonサイトより引用)
3歳の息子に、父親がインタビュー
1989年。35歳の著者が、3歳の息子とふたりで喫茶店に行って、45分間のインタビューをします。全部録音しておいて、後から文章にまとめたそうです。
このインタビュー書き起こしが、なかなか面白いのです。「あきら」がお父さん(著者)で、「たかし」が息子さんです。
あきら 隆さあー、自分の隆って名前、どう思う?
たかし ん?
あきら (中略)ほかの名前の方がよかった?
たかし 隆でよかった。だってさー、保育園でたかしとたかしなんだもの。(保育園にもう一人、仲のいい子でたかしくんという子がいる。)
あきら (笑)そうか、よかったよ。あれ、おとうさんが最初に考えたんだよ。
たかし ふーん。だって隆はおとうさんから生まれたんだもんねー。
あきら (絶句)そうか、おねえちゃんは?
たかし おねえちゃんは女だからおかあさんから。
あきら ……。じゃ、隆は生まれる前はおとうさんのおなかの中にいたんだ。
たかし うん、そうだよ。
(『子どものことを子どもにきく』p11~12より引用)
子どもの発想って、大人の想像を軽く超えてきますよね。私も3歳長男にインタビューしてみたくなりました。
あと数年もすれば、隆の口のきき方もぼくたち大人のそれに近いところになってくるだろう。
隆はあるものを獲得する分、あるものを失うだろう。
このインタビューの隆のことばには、やがて世間にあわせて体形だっていくことで見失われるだろう自分語とでもいうべきキラキラしたことばの跳躍が随所にあって、僕には聞きごたえがあった。
(『子どものことを子どもにきく』p23より引用)
著者はこのあとも、年に1回の息子インタビューを8年間続けました。
そしてこれは最後のインタビューのとき。
とうとう隆は10歳になった。五年生だ。(中略)
八年間続けてきたインタビューも、そろそろ終わりの時期が来たようだ。(中略)
ちゃんと成長している。
このあと隆のことばを一々取りあげて心理分析したりするのは、本人の望むところではないだろう。
親子ではあるけれど、もう別々の物語を始めねばならぬ日は近い。
(『子どものことを子どもにきく』p167~168より引用)
8年分のインタビュー(もちろん抜粋なので、45分のインタビュー全文書き起こしではありません)を読んできて、ああ、この「インタビューの終えどき」をちゃんと分かっている著者はさすがだなあと思いました。
この本を読むと、自分のお子さんにインタビューをしてみたくなると思います。
とにかくたずねてみることだ。
また、これは大人と子どもの関係論を考える際のあまりに大きな落とし穴ではないかと思うが、ぼくたちは子どもや教育のことを考えるのにまず子どもに聞くということをどうしてこんなにもしてこなかったのだろう。
(中略)
そして、あらためてインタビューしてみると、毎日顔をあわせている親子の間ですら、けっこう知らないことはあるものだ。
(『子どものことを子どもにきく』p193~197より引用)
子どもインタビュー十戒
そしてこの本には、インタビューをする際の注意事項も書かれています。
①子どもだからおもしろいことを言うと期待してはいけない。
②「子どもだから言ってもわからないだろう。たずねても答えられないだろう」と甘く見たり、過保護にしない。
③大人なりの都合のいいところに誘導しようとしない。
④大人がすでに答えを知っていることをわざわざたずねない。
⑤まとめようとしない。
⑥相手の全力にはこちらも全力をだす。
⑦答えにくいこと、答えたくないこと、どう考えたらいいのかわからないこと、そもそも考える気にならない質問もあることを丸ごと認めることも必要。
⑧⑦を押さえつつ、「でもやっぱり教えてほしい」とか、「今、考えてみてほしい」とか頼んでもみる。相手の心に踏み込むことだが、それはそれで大事なケースもある。
⑨基本的には親子は雑談の世界だ。ただ「戦争」でも「性」でも「教育」でも、親の側からこの話をたまには一緒にしてみたいんだよという提案はあっていい。たとえば親子でそんな映画を観たあとなどに自然にできたらいいだろう。
⑩喫茶店やファミリーレストランを利用してインタビューした場合、なにを飲みたいかは100%子どもの意向を入れ、会計は親が持つ。これはインタビューの基本ルールだ。
また、あとがきにはこのように書いてあります。
校正の段階で唯ひとつ気をつかったのは、いずれ大人となる隆が書棚でこの本を見つけたときに腹をたてたり、傷ついたりしないようにとチェックすることだった。
(『子どものことを子どもにきく』p214より引用)
息子さんは立派な大人に
インタビュー対象だった息子さん(杉山隆さん)は1989年時点で3歳なので、おそらく私の2歳上です。お名前を検索したら、山岳ガイドとして活躍されていて、浅間山で結婚式をあげた、という2015年の記事を見つけました。
自分が3歳から10歳まで父親にインタビューを受けた内容が書籍として出版されていること、ご本人がどんなふうに考えているのかとても興味があります。私なら、ちょっと恥ずかしくて、ちょっと嬉しいかな。
著者をTwitterで見つけました
そしてTwitterで著者の杉山亮さんを発見しました。児童書作家として現役で活動されています。
もうお孫さんがいらっしゃるようで、味わいのあるTweetをされています。
うちは物に名前をつける
— 杉山亮 (@nqaOAaBRPlMvwlK) August 30, 2020
習慣があった。
例えば車は鬼六とか。
名をつけると親しみが増す。
幼児が最初に認められたと
感じるのは
他人に名前を呼ばれた時だ。
存在を認められるのは喜び。
だから孫の幼稚園の友達の名は
全力で覚えて
「◯ちゃん元気?」と言う。
それで喜ばれるならお安い御用だ。
素敵なおじいさんですね。
家で孫に絵本を読む時
— 杉山亮 (@nqaOAaBRPlMvwlK) June 11, 2020
長すぎる文が続くと
とっさにはしょったり
くどい部分を言いかえたりした。
それは作者の預かり知らぬ事。
でも買った服が子どもの体と
合わないようなら
仕立て直して着易くする。
そうやって
まず面白く読んだ本は
後で必ず孫が自分で手にとって
指で一字一句追って全部読んだ
私も息子たちに絵本を読み聞かせるとき、「これは長すぎる…」と思ったらはしょったり言い換えたりしていました。ああ、これでいいんだなと安心しました。
3歳長男が4歳の誕生日を迎える前に、私も一度「インタビュー」をしてみたいな…と思っています。できれば毎年インタビューをして、その記録をいつか長男に渡したい。
そして次男も3歳になったらインタビューを始めてみたいです。
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