おたまの日記

都内で働く二児の母(東大法学部卒)が、子育てしながら考えたことや読んだ本、お勧めしたいことを書いてます。

映画「夕霧花園」を多くの日本人に観てみてほしい

たとえ話:原爆を知らないアメリカ人

もし日本を訪れたアメリカ人と話をしていて、「広島にも行ってみたいなー、お好み焼きが美味しいらしいね」「原爆?なにそれ?」と言われたら、モヤっとしませんか?

私なら、この人は原爆のことを全く知らないの?別に戦後生まれのアメリカ人に原爆の責任を感じて毎日生きて欲しいとは思ってないけど、せめて知識としては知っていて欲しい。せっかく日本に来たんだから、広島に行くんだったら歴史のことも知って欲しいな、と思います。

※ちなみに私がこれまで親しくしてきた米国人で、広島・長崎の歴史を全く知らない人は1人もいませんでした。念のため。

 

私が言いたいこと:加害の歴史を知らない日本人

日本人が例えば東南アジアの国々に旅行で訪れる際に、もしかして現地の人にそんな気持ちを抱かせていることがあるのではないか、と思っています。

もちろん観光地に休暇で訪れるのであれば、過去の戦争の話なんて知らなくても現地で楽しく過ごせれば良いという意見もあると思うのですが。少しでも現地の人と話をする機会があるのであれば、過去の歴史を「相手は知っているかもしれない」という想像力が必要だと思うのです。

私自身は出張であれ旅行であれ、過去に日本軍が侵攻した地域を訪れる際には事前に多少でも調べるようにしています。パラオ旅行ではスキューバダイビングの合間をぬって歴史博物館で日本統治時代の展示を見たし、フィリピンに行った時は空き時間にイントラムロスのサンチャゴ要塞にいきました。

加害した側は忘れても、被害を受けた側は忘れない、と思っています。私は完全なる戦後世代なので日本の戦争責任を自分が取らねばとは思っていませんが(取れるとも思わない)、せめて知識として日本がこの地でなにをしたのかくらいは知っておかないと、怖くて現地の人と話せない、という感覚があります。

 

さて、前置きが長くなりましたが、『夕霧花園』という映画を見ました。

第二次世界大戦時に、マレーシアで日本軍がなにをしたのか、ご存知でしょうか。

 

夕霧花園(ゆうぎりかえん)

昨年の大阪アジアン映画祭オープニングを飾り、上映後客席から拍手が巻き起こった本作がついに日本国内の公開を迎える。日本ではあまり語られることのない第二次世界大戦におけるマレーシアの歴史と共に一組の男女の切ない恋が紐解かれていく。物語は亡き妹の夢である日本庭園造りに挑んだヒロイン・ユンリンと日本人庭師・中村が出会ったことで動き出す。キャメロンハイランドの美しい景色を舞台に、日本軍による占領という歪んだ関係にあったマレーシアと日本の因縁を超えて惹かれあう二人の運命が戦中の1940年代、戦後の1950年代、そして近代の1980年代からなる三つの時間軸を通して描かれる。

(引用:夕霧花園公式サイトより)

 

私はこの映画を、公開初日の初回に観に行きました。 

 

トム・リン監督はこの映画を撮るために、日本庭園や日本美術を学び、さらに生存している戦争経験者や元慰安婦からも聞き取りを行ったとのことです。

globe.asahi.com

 

映画の感想(観た直後のメモ)

・この映画は誰向けなんだろう。単純な勧善懲悪ではないし、マレーシアの人や台湾の人はどんな気持ちで見るのか。日本軍の残虐行為を抑制的に描いていて、庭園や浮世絵、彫り物など日本文化への敬意に満ちている

・2010年代にこの映画が作られている(原作小説は2012年、映画化は2019年)、ということを日本人はもっと知ったほうが良い。第二次世界大戦時の日本軍による占領を題材にして今も新たな小説や映画が生まれている

・原作小説が日本語になる前に各国語に翻訳されて評価されている。日本語版の出版がこんなに遅いのはなぜ?

・日本人として、観ていて辛い(女性なので慰安所のシーンでは被害者側に感情移入してしまうが、日本人なので加害者側の立場に立っているように感じてしまう)←軍人/民間人の視点では民間人側に、日本人/マレーシア人の視点では日本人側に、男性/女性の視点では女性側に立つ私。

・有朋さん、もっと喋って!説明して!お願い!!

・海外の人から見た日本庭園の素晴らしさ。私はこれまでそんなふうに庭園を見たことがなかった。今後、私の人生で日本庭園を見る目が変わった。庭園を作る人のことを絶対に考えてしまう

・痛いのほんと無理

・妹の夢だった日本庭園を作るには、妹を殺した日本の文化を学ばないといけない。苦しい。

・戦犯に託された家族への手紙を出してあげるんだ。それが許したということなのか。

・そこでなんで有朋を引っ叩かないといけないのか ←ちょっと状況説明を文字化するのが躊躇われるのでしません

 

上映後の舞台挨拶メモ

※初回上映の直後に、監督と主演のお二人がオンラインで舞台挨拶をしてくれました

・Zoom会議で阿部寛と同じ画面に自分が映っている!(もちろん私は一観客なので非常に小さくしか映ってません)

・巨大な白いマグカップで飲み物を飲みながら喋るトム・リン監督

・小さな赤い紙コップで飲み物を飲みながら喋る阿部寛

・ものすごく美しいシンジエさん

・MCからの無茶振り「秘密はありますか?」

・無茶振りに答えて撮影時のカブトムシの話をする阿部寛→めっちゃネット記事になってる。でも記者さんたち、映画が終演してから客席の一番前に入ってきて、舞台挨拶だけ写真撮影したりメモを取ったりして記事を書かれたようなので、映画そのものは観ていないのでは?せっかくなら映画も観て欲しかったなあ。

・MCが質問の最後に必ず「では阿部寛さんからお願いします」と日本語で言うので、阿部さんは息を吸って話し始めようとする、そこに通訳者の男性が中国語で通訳を始めるので阿部さんがおっとっと、と待つ。というシーンが3回あったので、阿部さんそろそろタイミング覚えてーって思った

・作中ではあまり笑顔を見せなかった阿部さんがいい笑顔をしてて良かった

 

その後、原作小説を読んで

・映画とだいぶ異なる(姉と妹が逆だし、終わり方も全然違う)

・なぜ主人公姉妹が戦前の日本を訪れたのか、など背景がわかった

・多くの人が日本はパールハーバーで戦争に突入したと思っているが、実はパールハーバー攻撃の1時間前にマレーシアに侵攻した

・あの美しい日本庭園を文字だけで表現するのは本当にすごい。でも私は先に映画を見たから想像できるけど、日本庭園を見たことのないマレーシアの人がこの小説を読んで情景をイメージできるんだろうか?

・憎しみに支配されてはいけないよ、という人生の先輩からの言葉に出会えただけでもこの小説を読んで良かったです。この言葉の主はMagnusという名前の男性で、彼は20歳で第二次ボーア戦争に従軍して英国軍の捕虜になり、父親を殺され、自分を育ててくれた姉を強制収容所で亡くしました。それでも英国を許すのか、と主人公の女性Yun Lingに聞かれて答えたのが次の言葉です。

❛They couldn't kill me when we were at war. And they couldn't kill me when I was in the camp,❜ he said finally, his voice subdued. ❛But holding on to my hatred for forty-six years... that would have killed me.❜ His eye became kindly as he looked at me.

❛You Chinese are supposed to respect the elderly, Yun Ling, that's what that fellow Confucious said, isn't it? That's what my wife tells me anyway.❜ He managed a sip of his beer at last.

❛So listen to me. Listen to an old man... Don't despise all Japanese for what some of them did. Let it go, this hatred in you. Let it go.❜

(引用:The Garden of Evening Mists, p51-52 ※改行は私が加えました)

日本語にするなら、「彼らは戦争で私を殺せなかった。収容所でも殺せなかった。でももし私が彼らへの憎しみをその後46年間抱え続けたら、その憎しみが私を殺してしまっただろう」「孔子の教えで、中国人は歳上を尊敬しないといけないと聞いているよ」「だからこの年寄りの話は聞いておくれ」「一部の日本人の行為のために、全ての日本人を蔑んではいけないよ。貴女の中の憎しみを、手放しなさい」という感じでしょうか。(私が勝手に訳しました)

 

日本語訳が出版されたら改めて読みたいなと思います。

静かで美しくて痛くて悲しい小説ですが、終わり方がとても素敵でした。

 

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左上が映画リーフレット、右上が映画パンフレット、真ん中が原作小説です。右下は映画の半券。 

 

ぜひ映画を見てください

このような感情垂れ流しのブログにお付き合いいただいてありがとうございます。

上映館は限られているし、いつまで上映されるのかわからないのですが、もしよろしければ是非とも映画『夕霧花園』を観てください。さらに感想を教えてくれたらとてもとても嬉しいです。

yuugiri-kaen.com

 

【2021年8月16日追記】

私の友人が、この映画と原作の違いなどについて非常に丁寧なブログ記事を書いてます。この映画を観た方にはとてもオススメ。

ythr.hatenablog.jp

 

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