またあの日がやってきました。広島の空は晴れ上がり、暑い一日が始まろうとしています。平和記念公園の木立からはアブラゼミの声がしきりに聞こえてきます。そういえば、あの日の朝もたくさんのセミが鳴いていました。
(『絵で読む広島の原爆』p2,3より引用)
原爆投下から75年目に
75年間草木が生えないだろうと言われた、その75年目が今年ですね。
『絵で読む 広島の原爆』という絵本を読みました。
8月6日に合わせて近所の図書館で展示されていて、なんとなく手に取ったのですが、ものすごい本でした。
初めて読んでからもう3週間以上経つのですが、この絵本が頭から離れないのでブログに書くことにしました。
文章を書かれたのは那須正幹さん。このお名前でピンときた方もいるのではないでしょうか。
名作、ズッコケ三人組シリーズの著者です。ズッコケ三人組は、私が小学生の頃に大好きで読んでいた児童書です。懐かしい。
那須さん自身も被爆者だった
那須さんは、広島に生まれ3歳で被爆されたそうです。那須さんが被爆者だと私は初めて知りました。
広島の原爆の全体像を描こうと、イラストレーターの西村繁男さんとふたりで6年の歳月をかけてこの絵本を制作されたそうです。
本書は、生存者の証言をもとに再現された、広島の町と、そこに暮らす人びとのようすが描かれています。小学校上級~大人まで。
(Amazon内容説明より引用)
ものすごい絵本です
絵本というよりも、重厚な資料本という印象です。巻末の詳細な解説まで含めれば、読み切るのに1日かかるほどの内容です。江戸時代から1995年までの広島の街並みと、広島の人々の生活が丁寧に書かれています。
下絵を見たある被爆者は「平和教材なのでしょうが、私にはなつかしい風景です」と語ったそうです。
全部で84ページの絵本で、8月6日の描写には16ページが使われています。関心ある方には是非読んでほしいのですが、絵と文に圧倒されると思います。
3歳と1歳に読み聞かせるには荷が重くて、息子たちには見せていません。息子たちが小学校高学年くらいになったら、是非自分で読んでほしいなと思っています。
※…と書きましたが、この後、3歳長男がこの本を見つけてしまいました。「読んで」と言うので何度も読んでいます。長男は神妙な表情で聴いています。
忘れられない記憶に
閃光をあびた人もしだいに年をとり、おなかの中にいた赤ちゃんさえ、50歳になろうとしています。(中略)
しかし広島の被爆者にとって8月6日は、けっして昔話ではありません。ちょっとした病気にかかったとき、子どもや孫が生まれたとき、あるいは町で夏服の少女に出会ったとき。なにげない日常の出来事が、ふいにあの日の記憶をよみがえらせるのです。(『絵で読む広島の原爆』p61~63より引用)
この本が出版されたのは1995年です。
2020年の今では、おなかの中にいた赤ちゃんも75歳。被爆者の話を直接聞ける機会もかなり希少になってきました。広島でも、なにげない日常の出来事に「ふいにあの日の記憶をよみがえらせる」人も少なくなっているのだろうと思います。
でも私はこの絵本を読んでからもう3週間以上経つというのに、セミの声を聴くたび、「今日も暑い日になりそうだな」と思うたびに、この絵本のことを思い出しています。
もしかして私に子どもや孫が生まれたときにも思い出しそうだなと思っています。
この絵本の力に、ただただ圧倒されています。
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