今年の4月に下記のブログ記事で、「慣らし保育は突然死を予防するためにあったんだ、と初めて知った」と書きました。
ある日受け取ったメール
それから8ヵ月経った12月に、このブログのお問い合わせフォームからメールを受け取りました。(ちなみにコメント欄ではなくわざわざお問い合わせフォームで連絡してくれる人はとても珍しいです。)
なんと、上記のブログ記事で引用した論文を書いた中村徳子さんご本人からのメールでした。
※論文はこちら:保育預かり初期のストレスとSIDS危険因子の関係について - CRN 子どもは未来である(伊東和雄さんと中村徳子さんの共著です)
メールには私のブログを読んだことと、論文引用の御礼と、さらに読むべき論文のご紹介が書かれていました。
※紹介いただいた論文はこちら:保育施設内で発生した死亡事案 - CRN 子どもは未来である
メールを開いた瞬間は、「えっ、論文の執筆者ご本人からメール…?私の論文の解釈が間違っていた??もしかして怒られるの??」と焦ったのですが、本当にただただ「この論文も読むと良いですよ」という優しいご紹介だったので、ほっとしました。
中村徳子さん、いったいどんな方なんだろう…。
ブログを褒められました
なお、嬉しいことに、論文共著者の伊東和雄さんからもブログを褒めてもらいました。
>突然死予防の啓蒙にも役立つブログ内容と思います。私たちの論文を含め、公開されている情報だけでここまで理解し、現実に当てはめてくれる人は少ないかもしれません。
ありがとうございます…嬉しいです!
ご紹介いただいた論文の見どころ
さて、今回新たに中村さんに教えていただいた論文(保育施設内で発生した死亡事案 - CRN 子どもは未来である)はとても読みごたえがあるので、関心がある方は是非原文を読んでいただきたいのですが、見どころを中村さんに教えていただきました。
この論文は
・日本で初めて保育施設の厚労省「事故報告」を詳細に分析、考察したもの
・この公的データ分析から、保育現場では、乳児だけでなく1・2歳児も含む3歳未満児の睡眠中の突然死(疾病)のリスクが高いことが確認された
・あわせて、保育現場で仰向け寝からうつぶせに寝返りされた時の注意について、公的データから初めて言及された
という、とても画期的なものだったそうです。
私は息子たちが0歳の頃はSIDS(乳幼児突然死症候群)が怖くて怖くてとても気を遣っていたのですが、最近は長男が2歳、次男が1歳になったことでちょっと油断していました。こうした論文を読むと、たとえ1歳を過ぎたとしてもSUDI(乳幼児の予期せぬ突然死:Sudden Unexpected Death in Infancy)への注意は必要だし、3歳になるまではうつぶせで寝かせないようにしよう、と決意しました。
なお、以前のブログにもまとめましたが、突然死を防ぐために親が気を付けることには下記のような具体策があります。
我が子の突然死を防ぐために気を付けること
・うつ伏せ寝させない。なるべく母乳を与える。暖めすぎに注意。喫煙は言語道断←この辺は従来から言われていたことです
・そして、保育園に預けるなら2週間は慣らし保育期間をとり、少しずつ新しい環境に慣れさせる(預け始めから長時間預けない)
・特に月齢が小さい子どもは、体調が悪い日は預けない(前述の報告では、SIDS発症児の67.7%は当日の体調が悪かった)
※この「体調が悪い」は、具体的には「微熱がある、ミルクの飲みが悪い、食欲がない、軽い風邪のような症状、機嫌が悪い、よく泣く、元気がない、何となくいつもと様子が違うなど、通常は保育施設で預かる範囲の体調」です。熱が37.5℃未満であれば保育園は預かってくれますが、もしこうした体調不良があった場合には、「我が子の突然死を防ぐために、保育園は休ませる」という判断を親がしなければならないんだな、と理解しています。
そして、つい気になったので「中村さんはどんな人なんだろう」とググってしまいました。
中村さんについて
こちらには、下記のように書いてありました。
1995年に開園しておりました私の園で、大切なお子様がSIDS(乳幼児突然死症候群)で亡くなられました。
保育のプロとして、大切なお子様の命をご家族からお預かりしている以上、来られた時と同じように元気な姿で、ご家族の元へお戻しすることが当然なのに、一番大切な命をお戻しすることができなかったことが、ただただ申し訳なく、悲しい思いでいっぱいでした。かけがえのない命を守れなかった深い悔いと、お子様、ご家族への申し訳ない思いで、一時は生きる気力さえ失いかけましたが、お子様の命を無駄にしないために、私ができることは、SIDSの予防情報を保育現場に伝え、子どもたちの命を守るお手伝いをすることしかないと決意し、1996年からSIDS予防活動を始めました。
(引用:日本学校保健研修社「健」2009年6月号 預かり初期に発症リスクの高いSIDS(乳幼児突然死症候群)―その予防と対応 中村 徳子(託児ママ マミーサービス [SIDS予防活動] 代表、京都府認証 NPO法人 乳幼児の救急法を学ぶ会 理事))
ああ、中村さんは保育園の園長先生だったんだ。預かっていたお子さんをSIDSで亡くしたんだ。そして深い後悔からこのような活動を始められ、20年以上経った今でもこうした啓蒙活動を地道に続けているんだ。
私、泣きました。深夜に自宅のコタツで大泣きしました。
いま、私が子どもたちを預けている保育園では、昼寝中は5分ごとに呼気確認してうつぶせになっている場合は仰向けに戻すなどの対応をしてくれています。入園した時からそうだったのであまり深く考えたことがなかったのですが、こうした対応が当たり前のようにされるまでには、いくつもの保育所での悲しい出来事と、その後悔から啓蒙活動を始めた遺族や保育園関係者の努力があったんだな、と気づきました。
こちらは中村さんが運営しているSIDS予防活動のウェブサイトですが、例えば紹介されている冊子(「130の小さな叫び」保育施設での事故例調査報告書 1982年12月」)を読むと、保育所で命を落とした子どもたちの事例や、その遺族の深い後悔が伝わってきます。私が産まれる前にもこれだけの死亡事故などがあり、有志の人々が教訓を生かそうと啓蒙活動をしてきたんだ…と思いました。そしてまだまだ「SIDSは窒息死とは違う」ということすら世間一般に十分に認識されていないのが現状で、中村さんはSIDS予防の啓蒙活動をずっと続けてこられた方のひとりです。
時系列にすると下記のようになります。
1982年:「130の小さな叫び」保育施設での事故例調査報告書」が出版される(うつぶせ状態での発見が多いことを指摘、預かり初期の注意、寝返りによるうつぶせ寝の注意など明記されている)
1996年:中村徳子さん、SIDS予防の啓蒙活動を開始
1997年:中村徳子さん、「130の小さな叫び」の存在を知る
1998年:厚生省がSIDS予防キャンペーン開始
もし1980年代から全国の保育施設でSIDSについての情報共有が進んでいたら、1998年までの間に亡くならずに済んだ子どももいたのかもしれないな…と思いました。
いま保育園に子どもを預けている母親のひとりとして、中村さんに御礼を申し上げたくなり、ブログのお問い合わせフォームから頂いたメールに長々と返信を書いて送りつけてしまいました。さらにブログで紹介する許可もいただいたので、このような形で中村さんの活動を紹介させてもらうことにしました。
まとめ
子どもを保育園で亡くす、というのがどれほど辛いことなのか、今回様々な情報に接して改めて考えました。もし私が遺族の立場だったら、「こんなことになるなら仕事を続けなければ良かった」「あの保育園に行かせなければ良かった」「あの日、登園させなければ良かった」という激しい後悔にさいなまれそうだな、と思います。そして保育園の先生や園長先生の立場だったら、預かっていた子どもを亡くしてしまったことで一生自分を責めてしまうのかもしれない、と思います。
私のブログは本当にただの趣味で書いている無責任なブログですが、もしこれを読んだ乳幼児のお父さん・お母さんが、いつかお子さんがほんの少し体調が悪い日に「どうしよう、これくらいなら保育園に行かせても大丈夫かな」と思ったときに、ちょっとでもこのブログで読んだことを思い出してくれて、「そうだ、体調が悪い日はSIDSのリスクがあがるんだった。今日は保育園を休ませよう」と考えてくれるとしたら、うわあブログを書いて良かったな…と思います。そうそう仕事を休めない、というのは承知のうえですが。。
私も働く母親として、仕事を急に休むのは辛いし、正直言えばこれまで多少の体調不良があっても熱さえなければ保育園に行かせても良いかなと思っていました。
でも、今回、保育園でSIDSで亡くなった子どもたちの事例をいくつも読んで、もしも自分が子どもを保育園でSIDSで亡くしたら、ということをリアルに想像してしまったので、これまでと同じ自分ではいられないなと思います。
中村徳子さん、いろいろ教えていただきありがとうございました。ご活動、応援しております。
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