おたまの日記

都内で働く二児の母(東大法学部卒)が、子育てしながら考えたことや読んだ本、お勧めしたいことを書いてます。

「もはや誰も子どもを産まなくなる。遠からず大韓民国は消滅する」韓国社会の現在から学ぶこと

韓国は日本の先を行く超少子化国である。韓国の大手新聞の社説は、もう何年も前から「もはや誰も子どもを産まなくなる。遠からず大韓民国は消滅する」と警鐘を鳴らし続けている。

(『韓国社会の現在』p16より引用)

 

春木育美著『韓国社会の現在  - 超少子化、貧困・孤立化、デジタル化』を読みました。

 

私がびっくりしたこと

・韓国の合計特殊出生率は2019年に0.92と過去最低を更新した(日本は1.36です:参照

・10代の7割が大学に進学するが、その多くは定職に就けないまま30代を迎える(私の友人を見ていても、日本人より韓国人のほうが自国内での就活には苦戦している印象です)

・20代の未婚率は91.3%(日本は79.7%)、30代の未婚率は36.3%(日本は34.8%)

・日本を上回るスピードで高齢化が進む(人口に占める65歳以上の高齢者の比率は2065年に46%に!)

・「北朝鮮と統一さえすれば人口減少問題は緩和する」という楽観的な見解が根強い(が、北朝鮮でも少子化が進んでいるのが実態)

・1995~2000年にかけて、女児100人に対し男児が平均114人(第三子では男児が180人)産まれた。息子ほしさに、女児の中絶が多かった →この影響で、彼らが30歳を超える2020年代後半から、同世代では男性が女性より20%ほど多くなる

※この「女児の中絶」傾向は、小説『82年生まれ、キム・ジヨン』でも描かれていました

 

本書では、ある面では日本の近未来を映し出し、また日本が選ばなかった道や方向性を指し示す韓国社会の現在について、一、少子高齢化、二、貧困・孤立化、三、デジタル化、四、教育、五、ジェンダーといった五つの視点から考察する。(中略)韓国が直面する課題は、日本も同様に直面しているか、あるいは今後直面するであろうと思われる問題が多い。

(『韓国社会の現在』はじめにより引用)

 

韓国の失敗から学ぶこと(少子化対策)

少子化の背景として、若者の経済的不安、長時間労働の常態化、家事育児が女性に偏っている現状、子どもの教育費への懸念などは日韓で共通しているようです。

一方、日本にはない韓国特有の歴史背景としては、1997年末のアジア通貨危機で「男性だけの片働きはリスクが大きい」という危機意識が共有され、女性の社会進出が一気に進んだとのこと。現在の20~30代の韓国女性の多くが、子どもの頃に通貨危機で父親がリストラや失業の憂き目にあい「家財道具に差し押さえの赤札を貼られた経験」をしたそうです。専業主婦のリスクを国民の多くが一気に感じる経験、日本では無かったですよね。

 

さて、韓国で少子化対策が本格化したのは2005年。出産後も女性が働き続けられるよう制度の整備が進みます。

3歳未満の保育所利用率は急速に上昇し、2012年になると日本の25.3%に対し、韓国は62.0%と、日本を上回るようになった。(中略)

この頃になると、第一線で働く財閥系企業や大手金融機関の女性は、朝7時に企業内保育所に子どもを連れて行き、急な会議が入った日には、夜10時まで保育所に子どもを預け、寝入った子どもを抱えて帰宅するという生活が可能になった。

(『韓国社会の現在』p31より引用)

うーん、私はこの生活はしたくないな…という感想です。

長時間労働や、育児の女性への偏りをそのままにして、保育所整備による「女性の労働力化」を進めると、こんな生活が「可能」になるんだな…と思いました。

 

ちなみに、日本の保育所利用率に興味を持ったので調べました。0~2歳を単純に合計すれば、保育園もしくは幼保連携型認定子ども園に通っている子どもは約36%になります。

日本でも保育所利用率は増加傾向にはあるようですが、まだ2012年の韓国の保育所利用率に及びません。無償化前でも3歳未満の保育所利用率が62%という韓国の数字、すごいですね。

 

さらに韓国では、日本に先駆けて保育園が無償化されます。0歳~5歳児の保育施設が2013年から誰もが完全無料で利用できるようになりました。

ただ、この政策は失敗だったようです。

無償保育は導入前から反対意見が少なくなかったが、導入した後も否定的な声が強い。

専門家が指摘するのは、第一に、巨額の予算を投入する無償保育のようなバラマキ制作を実行する前に、まずは公立の保育園を増やすこと、第二に、全体の9割を占める民間保育園の質管理の徹底を優先すべきだということである。

(『韓国社会の現在』p37より引用)

無償化による利用者の急増、民間保育園の急増(収益を上げるために保育士の数を最低限にしたり最低賃金に近い給与で働かせたりする施設が続出)、過当競争による保育の質の低下などが起こり、子どもたちに弊害が及んだと著者は指摘します。

そして「保育費の無償化は子どもを産む直接的なインセンティブにはなりえない」「保育が必要なのはほんの数年間で、その後も子育ては続き、莫大な養育費と教育費がのしかかるからだ」との指摘には私も深くうなずきました。

 

日本でも2019年10月から、3歳~5歳の幼児教育・保育の無償化が始まりました。

韓国の経験に照らすと、日本も政策の優先順位に問題があるのではないだろうか。財源に限りがあるなかで一律に無償化を進めれば、韓国のように保育環境の質が低下するという結果につながりかねない。

(『韓国社会の現在』p42より引用)

日本で幼保無償化を議論する際、韓国の失敗からちゃんと学んだのかな…と気になるところです。

日本でも「保育無償化より保育士の待遇改善を」と求める声は多かったと記憶していますが。

 

深刻な少子化を引き起こした直接的要因は、未婚や非婚の増加である。その背景にあるのは、極度の就職難と不安定雇用などの経済的不安である。

(『韓国社会の現在』p52より引用)

このあたりは、日本の少子化の原因とも共通しているように思います。

日本の少子化対策はなぜ失敗したのか?』の本でも、①「リスク回避」傾向、②「世間体重視」、③子どもへの強い愛着ー子どもにつらい思いをさせたくないという強い感情、これらは日本と韓国で共通していると書かれていました。

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是非読んでください

この本は2020年8月に発行された新しい本です。コロナ禍での韓国社会など、非常に勉強になることばかりでした。

上記では少子化の話だけを書きましたが、ほかにも貧困・孤立化、デジタル化、教育、ジェンダーと、読み応えのある話がたくさん書いてあります。

ひとつだけおまけで紹介します。

「ホンパプ」とは「ひとりごはん」という意味である。(中略)

少し前まで、韓国ではひとりで外食する人はごく少数だった。(中略)

「ひとりで食べるくらいなら食事は抜く」という人も少なくなかったのだ。(中略)

あるドラマが韓国でヒットした。日本のテレビドラマ「孤独のグルメ」だ。輸入雑貨商の中年男性が仕事で訪れた都市の飲食店で、ひとり食事を堪能する姿を描いたこのドラマは、「ホンパプは決してみじめなことではない」と認識を変えることに貢献した。

(『韓国社会の現在』p75~76より引用)

日本のドラマがこんな風に韓国社会に影響していること、初めて知りました。ドラマのソフトパワーってすごいですよね。私も最近、韓国のドラマにはまっています(愛の不時着)。

 

色んな分野で、日本が韓国の成功や失敗から学ぶことはたくさんあるな…と思います。

是非読んでください。

 

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