おたまの日記

都内で働く二児の母(東大法学部卒)が、子育てしながら考えたことや読んだ本、お勧めしたいことを書いてます。

虐待を疑われたときの話

私が子ども虐待を疑われたときの話です。ちょっとお付き合いください。

 

初めての助産師訪問

第1子を産んでしばらくした頃、役所から助産師が派遣されてきました。確か私の住んでいる自治体では産後の助産師訪問は基本的に全家庭が対象なので、これ自体は特別なことではないです。

 

助産師をリビングに通して、彼女が持参した体重計で息子の体重をはかったり、発育が順調か、私の健康状態はどうか、など確認してくれました。

ふと彼女の持っているバインダーをちらっと見たら、「赤ちゃんの洗濯物が干されていない、要観察」との手書きの文字が見えました。

 

あ、ネグレクト(育児放棄)虐待を疑われたんだな…と思いました。

 

私と助産師の会話

私「すいません、いまその文字が見えちゃったんですけど…もしかして前にも我が家に来られてます?洗濯物を確認されたってことですよね」

助産師「あ…、他の家庭を訪問するついでに、ちょっと確認させてもらいました」

私「子どもの服に花粉をつけたくなくて、室内干ししてるんです。大人の洗濯物だけ外に干してます」

助産師「ええ、お子さんは清潔な服を着てるし、いまこうしてお会いしてお話して、心配なことはなさそうだなと思ってます」

私「あ、すいません。文句を言うつもりはなくて…こんなに細かく各家庭のことを確認されてるんだな、すごいなあと思って」

 

そのとき思ったこと

実際のところ、「私は虐待するような親だと思われたのか」というショックは受けました。

ただ、落ち着いて考えてみれば助産師に責められるべき点はなくて(まあ私にバインダーの文字を見せてしまったのは失敗だったかもしれませんが笑)、こうしてひとつひとつの家庭の状況をチェックして、虐待や虐待死を未然に防ごうとしているわけですよね。

洗濯物が全く外に干されていなければ洗濯乾燥機を使っている可能性もありますが、普通に考えて「赤ちゃんがいるはずなのに、大人の洗濯物しか干されていない」家っておかしいです。実は赤ちゃんがこの家に住んでいないのかもしれないし、もしかして親が育児放棄して、赤ちゃんに着替えもさせず汚れたまま放置しているかもしれないわけです。もし家庭訪問して赤ちゃんが痩せているとか汚れた服を着ているとか「これは本当にネグレクトしているようだ」と虐待の疑いが強まったら、一時保護とか、何かしらの支援につなげてくれるんだろうと思います。

ああ、うちの自治体は、産後の母子をここまで見守ってくれるんだ、という安心感を持つにいたりました。

 

 

 

 

虐待で死んでほしくない

さて、突然このような3年も前に私が虐待を疑われた話を書いたのは、東京・大田区で3歳女児が衰弱死した事件の報道に接したからです。

news.yahoo.co.jp

母親は娘を自宅に残し8日間の旅行にでていたとのこと。熱中症予防でエアコンをつけてお茶とお菓子をおいていき、「死ぬとは思わなかった」と話しているそうです。

母親への怒りの声を散見しますが、たぶんこの母親を責めても問題は解決しないんだろうと思います。友田明美著『親の脳を癒やせば子どもの脳は変わる』によれば、日本では平均すると1週間に1人以上の子どもが虐待死しています。「親の支援・親の治療こそが子どもを守ることにつながる」とのこと。

www.shiratamaotama.com

 

子どもを死なせたことは許されませんが、この母親も、「社会からの支援を必要としている人」だったのではないかと思っています。(私は専門家ではないのでこの母親が認知能力に問題を持つ人かどうかは判断できませんが、『ケーキの切れない非行少年たち』によれば、人口の16%はIQ85未満で多くの支援を必要としている人たちです)

www.shiratamaotama.com

 

本件について、児童相談所の所長が「本人からの事前の相談もありませんでした」と話されたそうです。

大田区も管轄する都の品川児童相談所の所長は7月8日、J-CASTニュースの取材に対し、こう話した。

「本人からの事前の相談や近所などからの通告もありませんでした。亡くなったのが分かった当日に警察から一報を受け、初めて事実を把握しました。報道でその内容を聞いて、とても驚いています」

(引用:J-CASTニュース

でも、虐待する親(虐待する状況に追い込まれた親)本人が、自分から児童相談所に相談するのはなかなかハードルが高そうです。

 

娘を保育園に通わせるのを辞めた昨年3月の時点で区役所がリスクに気づいてあげられなかったのかな、と感じました。

彼女が「シングルマザーで、保育園を辞めさせた」ところで、たとえ本人からの相談がなくとも「要観察」家庭と行政側で判断して、洗濯物の状況とか昼間にカーテンが開いているかとか、週に1回でも見に行くような体制になってほしい、と思います。

児童相談所も区役所もみんな人手不足で忙しいのは重々承知の上ですが…。

 

虐待を疑われて不愉快だった人へ

そして、もし助産師訪問などで私のように「虐待を疑われた」とショックを受けた方がいらしたら、気持ちは分かります!でもそれだけ丁寧に各家庭の状況を確認してくれる良い自治体なんだ、と思ってみてほしいな、と思います。

世の中には「虐待を疑うなんてひどい」と言って、役所に猛烈なクレームを入れてくる市民の方々がいるそうです。そのクレームがめぐりめぐって役所の活動をためらわせ、どこかの子どもを死なせてしまうかもしれません。どうか落ち着いてください。

このブログを読んだ誰かが「あ、おたまも虐待を疑われたことがあったんだ」「うちだけじゃないんだな」「役所も虐待を防ごうと頑張ってるんだな」と思ってくれたら良いな、と思っています。

 

そういえば保育園でも月曜の朝に子どもの顔に傷があったりすると、保育士がめざとく見つけて「これ、どうされました?」と聞いてくれます。「ああ、転んでおでこをぶつけまして」と正直に説明しますが、こうした声掛けも、もしかして虐待の早期発見のためでもあるのかな、と思います。(また、園でのケガではないことを確認するため、というのも理由にありそうです)

私は子どもをもつまでは「虐待をする親」というのは自分から遠い存在だと思っていましたが、自分が子どもを育て始めて3年経ってみて、どうもそうではないようだ、と感じるようになりました。育児の負担や悩みを分担できる配偶者の存在や、保育園や両親や友人によるサポートがなければ、あっという間に「あちら側」に転落するような気がします。特にコロナ禍の自宅保育期間は、かなりギリギリのところで踏みとどまっていたと思います。

そういう意味で、私も常に社会から「この母親は十分な支援を得られているのか?子どもを虐待していないか?」という目で見ていて欲しい、と思っています。

 

もうひとつ考えたこと(赤ちゃんポスト)

あ、無理だ、育てられない、と思った人が、責められずに匿名で子どもを安全に捨てられる場所(=赤ちゃんポスト)が、東京にもあったら、この3歳の女の子は亡くならずに済んだ可能性もあったのかな…と思います。

熊本にある赤ちゃんポストについては下記の記事がすごく良かったです。

「赤ちゃんポスト」の真実に迫る――母親はなぜ預けたのか (1/2)

「遺棄や虐待から救う」ことを目的に、誰にも言えない人たちの駆け込み寺になっているそうです。12年間で預けられた子どもは144人(新生児118人,乳児18人,幼児8人)にのぼります。

この記事を読むまで、赤ちゃんポストは産まれたばかりの新生児を預ける場所だと思っていたのですが、特に年齢制限は設けていないんですね。

赤ちゃんポストに子どもが預けられた場合、戸籍法に基づき「棄児」(捨て子)と位置づけられるとのこと。赤ちゃんポストが安易な育児放棄を助長するとの非難もあるそうですが、死なせるくらいなら「ちゃんと捨てて」ほしいと私は思います。

 

亡くなられた女の子のご冥福をお祈りします。

 

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