かこさとし氏の絵本
私は子供を産んだことで20数年ぶりに『からすのパンやさん』と『はははのはなし』を読み直しました。自分が子供の頃に読んでいた絵本を、我が子と一緒に読むのは不思議な感覚になりますね。
いずれも、かこさとし氏の絵本です。ロングセラーなので、ご存知の方が多いかなと思います。
からすのパンやさん、色んなパンが出てきてすっごく楽しいです。
はははのはなし、歯磨きの大切さやよく噛んで食べることの重要性を教えてくれます。
どちらも1970年代前半に初版が出版されているので、もう50年近いロングセラーなんですね。うちの息子たちは特に「はははのはなし」が気に入っていて、寝かしつけ時によく読み聞かせをリクエストされます。
著者のかこさとし氏は2018年に亡くなられましたが、これらの絵本は今後もずっと読み継がれていくのだろうと信じています。
かこさとしの世界(公式図録)
さて、『かこさとしの世界』という本を読みました。1冊でもかこさとし氏の絵本でお気に入りのものがある方にはとてもオススメの本です。
未来を担う子どもたちのために。多くの人の命を奪った戦争が終わった後、何のために生きるか?かこが選んだ道は子どもたちのために生きることだった。昭和から平成を駆け抜けた絵本作家の信念と創作の世界に迫る。2019年92歳で逝去したかこを追悼する「かこさとしの世界」展公式図録。若き日の自画像、名作絵本の原画や下絵など初公開の作品や資料を多数掲載。
(Amazonサイトより引用)
私がこの本を読んで初めて知った、かこさとし氏のこと
・青春時代に戦争を経験。戦後、生きる意味を見失った
・航空士官を目指していたが近視が進み軍人になることなく生き残った自分を「死に残り」と呼んでいた
・東京大学卒の大先輩である(工学部)
・東大の五月祭でミロのヴィーナスの木版画を販売した(紙が貴重な時代、友人たちが紙を持ち寄ってくれた)
・東大卒業後は昭和電工に勤め、絵本作家としてのデビューは32歳(今の私の年齢!)
・2018年に亡くなるまで、生涯で600点以上の著作を残した(ほとんどが子供向けの絵本)
絵本作りへの思い:自分と同じ過ちをおかしてほしくない
19歳で敗戦を迎えたかこさとし氏の絵本作りへの思いが書かれていました。
子どもたちには自分と同じ過ちをおかしてほしくない、健やかな心と身体を持ち、知識を身につけ、自ら考えて判断し、行動する賢さを持ってほしいと、子どもの「生きる力」が育つように手助けをする人生を歩もうと決意する。この一貫した理念のもと、92年の生涯を閉じるまでの約60年間にわたって続けてきたのが「絵本作り」であった。そのため、自らの表現の発露として絵本を制作する絵本作家とは異なり、何よりも読み手である子どもたちのことを第一に考えた絵本作りをしている。
(『かこさとしの世界』p 146、「かこさとしの絵本作りー子どもさんへのメッセージ 水木祥子」 より引用)
健やかに育ってほしい
私は、この「自らの表現の発露ではなく、子どもたちのための絵本」というところに大きな感銘を受けました。自分が作りたい絵本、自分が描きたいことではなく、子どもたちが健やかに幸せに育ってくれることをひたすらに追求して絵本を作り続けた方なんだということを、初めて知りました。
私が子ども時代に何冊も読んだかこさとしの絵本が、こんなふうに作られた絵本であったことを、今知ることができて良かったです。我が子にもかこさとし氏の絵本を今後も読んでほしいなと思います。
先日書いた寄稿記事でも、私のオススメ5冊のうち1冊はかこさとし氏の絵本(『うつくしい絵』)です。今『かこさとしの世界』を読んだことで、この絵本のオススメ度合いがますます高まりました。
やなせたかし氏の本も読みました
さて、同じタイミングでこちらの本も読みました。アンパンマンを産んだ漫画家、やなせたかし氏へのインタビューを元に書かれた単行本です。
この本が出版された2013年にやなせ氏は亡くなられました。94歳でした。
私がこの本を読んで初めて知った、やなせたかし氏のこと
・5歳の時に、新聞記者だった父親が32歳で病死(←今の私の年齢!)
・父の記憶はほとんどないが、93歳の今でも父のことがすごく好き。なぜかはわからない。
・兵隊になって中国へ行き、上海まで引き上げてきた。それが父親の卒業旅行のコースに近く、「父親に守られているような気がする」
・弟は太平洋戦争で死んでしまった。父が弟のことも守ってくれればよかったのになあと思う
・戦争で「飢えるってことが一番つらいことなんだ」と身にしみて体験した
・戦争には真の正義はない。絶対に逆転しない正義は、「ひもじい人を助けること」。飢えを助けるのがヒーローであり、それがアンパンマンのもとになった
・子供にとって一番大事なことは「食べる」ということ。だからアンパンマンのキャラクターは基本的に食べ物
・元々は大人向けの詩集や本を書く作家だった。当初アンパンマンも大人に向けて描いたが、大人よりも子供に受けてしまった
・「なんのために生まれて なにをして生きるのか」など、歌詞が子供向けにしては難しいと指摘されることがある。でも幼児というのは話のホントの部分がなぜかわかってしまう
「なんのために生まれてきたか」って、わからないまま人生を終えるのは残念ですね。この歌を子どもの頃からずっと歌っていると、考えることが自然と身に付くような気がするんだ。もっとも僕にそれがわかったのは、60歳を過ぎてからのことで、ずいぶん遅いんですがね。
(『何のために生まれてきたの?』p57より引用)
・『手のひらを太陽に』は、やなせさんの作詞である
・やなせ氏は「汚いものが嫌い」「難しいものは好まない」「わかりやすく、誰もが楽しめるものを創作したい」
子どもたちのために
あの、3.11の震災後、まったく笑わなくなってしまった子どもが、アンパンマンの絵を見たとたん笑いだし、それを見たお母さんがうれしくて泣き出してしまったというお便りをいただいたんです。小さな子どもたちには、アンパンマンは実在しているんですよ。そういう声を聞いてしまったら、僕はそれに値することをしいなくちゃいけないと思って。作者として責任を感じるから。
「なんのために生まれて なにをして生きるのか」
長い間、僕はずいぶん悩んできたけど、やはり子どもたちのためにお話を書いたり、絵本を描いたりするのが自分の天職だなあと思うようになりました。
(『何のために生まれてきたの?』p116より引用)
小さな子どもたちって本当に不思議なくらいアンパンマンが好きですよね。うちの子たちも随分お世話になってます。
私は、アンパンマンのアニメを見て、かこさとし氏の絵本を読んで育った子どもでした。
健やかに幸せに育ってほしい、お腹いっぱい食べて豊かに生きていってほしいという祈りを込めて作られた作品たちだったのだということを32歳の今初めて認識しました。もちろん子供の頃の私はそんなことを考える必要はなくて、ただ面白いなあと思って作品に触れているだけで十分だったと思います。そして自分が母になり子供を持った今になって、こうした作品の背景を知ることができて良かったです。
私はこれらの本(『かこさとしの世界』『何のために生まれてきたの?』)を紙の本で読んでいたのですが、横から覗き込んだ3歳長男が「これ誰?」と聞いたので、これはアンパンマンを作った人なんだよ。これは「はははの話」を書いた人だよ。と教えました。
長男は「えっ、すごーい」と言っていました。どんな絵本にもアニメにも作者がいるんですよね。長男にはまだこれらの作品に込められたメッセージを教えようとは思っていません。面白いと思って読んでくれれば十分だと思います。そしていつか彼が大きくなった時に、もし興味があったら読んでごらんよ、と言って『かこさとしの世界』『何のために生まれてきたの?』を手渡してみたいなと思っています。
両親や祖父母や保育園の先生たち以外にも、君が幸せに健やかに育ってほしいと祈ってくれていた人たちがいたんだよ。と、長男にも伝わると良いな〜と思います。
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