実話にもとづく「パパふたり」の絵本
『タンタンタンゴはパパふたり』という絵本がある。英語の題名は『And Tango Makes Three』。ニューヨークのセントラルパーク動物園で恋に落ちた二羽のオスのペンギンの話で、実話に基づいている。
(『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー』p162より引用)
この絵本、すっごく良いです。2羽の男の子ペンギンがパパになる話です。
上記引用文で読み逃した方がいるかもしれないので念のため書きますが、「実話に基づいて」います。ちょっとびっくりしませんか?
私はこの絵本のことを『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー』のおかげで知りました。
英国の保育園には「必ずある」絵本
この絵本は英国の保育業界では「バイブル」であり、名作『はらぺこあおむし』のようにどこの園にも必ずあるそうです。
そして『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー』の著者であるブレイディみかこ氏は、英国でもLGBTの人が多く住む地域の保育園に勤めていた時期があり、「タンゴと同じように同性の両親を持つ子どもたちが何人も来ていた」とのことです。
著者がこの絵本を読み聞かせたときの子供たちの反応が素敵で、ああ私もこの絵本を読みたいな、と思いました。
英国の保育園児たちの会話
下記は子どもたちの会話の一部抜粋です(p164~165)。
『タンゴもジェームズと同じでパパが2人だから、いいなあ。うちもパパが2人のほうがよかった』『なんでパパ2人のほうがいいの?』『だって、3人でサッカーできるもん』『えーっ、ママが2人のほうがいいよ』『なんで?』『ママのほうがサッカーうまいもん』『僕んちはママだけ。でも時々ママのボーイフレンドが来る』『うちはパパひとりとママが2人』『うちのパパはいつもはパパなんだけど、仕事に行くときは着替えてママになる』
彼らは自分の家族が他の子の家族と違うことをまったく気にしていなかった。それぞれ違って当たり前で、それを悪いとも良いとも、考えてみたことがないからだ。
(『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー』p165より引用)
著者は『それにしても、幼児たちの世界はなんとカラフルで自由だったことだろう』と当時を回想します。
私はこの園児たちの会話を読んで、「私はこんな風に自然に受け止めることができなくなってしまっているな」と思いました。
私自身は今まで同性ふたりで子育てしている人に会ったことがありません。もし今後、息子たちの同級生の親が同性カップルだったりしたら、やっぱりちょっとびっくりするかなとは思います。
同性カップルの里親認定
日本では2017年に男性カップルが里親認定されて、随分話題になりました。
同性カップルの里親について厚生労働省は「過去に聞いたことはない」としており、全国でも異例とみられる。
市によると、「愛情があり心身が健康で経済的に安定していれば、どのような家族形態でも里親になることは可能」という。厚労省のガイドラインでも同性カップルを除外する規定はない。(上記記事より引用)
母性と父性
私は以前、ブログで母性と父性についてこんな風に書きました。
いわゆる「母性」が子どもを守り育てる性質で、「父性」が子どもを自立に導く性質だとすると、女性が母性100%、男性が父性100%なのではなく、ひとりの人間のなかに母性も父性もあるんだろうな、と思っています。
ひとによって母性が強い人も父性が強い人もいるだろうし、同じ人間でも、母性が強い時期(たとえば子どもが乳幼児期)と父性が強い時期がありそうです。
子どもは乳幼児期には母性を多く必要とするし、大きくなるにつれて父性も必要となってくる。でも大人だって母性のようなものに守られたいときもあるだろうと思います。
母性が強いお父さんや父性が強いお母さんが性別役割分業にとらわれすぎずに自分らしい育児をできる社会になると良いな、と思ってます。
子どもの健全な発達には母性も父性も必要だと思いますが、それは必ずしも生物学的な「母」と「父」である必要はないのだろうな、と考えています。
また、友人が離婚してシングルマザーとなり「身近に男性がいないと、男性との接し方が分からない子にならないか心配」と、男性保育士が多い保育園にお子さんを預ける検討をしていたことがありましたが、賢い方法だなと思いました。
たとえ男女の夫婦であっても子育てという一大プロジェクトを夫婦2人だけで完遂することはできないので、祖父母や兄弟や友人や保育士や先生の力を借りることになりますしね。
私が初めて同性ふたりの子育てについて読んだマンガ
中学3年生の冬、高校受験を終えてすぐの頃に、近所の本屋さんでこのマンガを買いました。
当時「赤ちゃんと僕」が大好きだったので同じ作者のマンガを適当に買ったのですが、この「ニューヨーク・ニューヨーク」は男性カップルを主人公にしたものでした。全2巻でふたりの出会いから色々な出来事が描かれ、養子を引き取り育てる描写もあります。15歳の私にはものすごいカルチャーショックでした。
でも大阪市の言うように、「愛情があり心身が健康で経済的に安定していれば、どのような家族形態でも里親になることは可能」なんですよね。
このマンガの主人公ふたりは愛情があり心身が健康で経済的に安定していて、養子の女の子をしっかりと育てます。娘が思春期に入って生理用品を買うところで四苦八苦しますが、娘は下記のように言います。
分かってる 彼らは必死なのだ
女の子に女親が教えられるもの
男の子に男親が教えられるもの
片方の性が抜けた親は 不足分を補おうと妙な負い目を感じるのだ
(「ニューヨーク・ニューヨーク」第2巻p356より引用)
そして「でも大丈夫」と続きます。是非読んでください。
なお、2巻の巻末には伊藤悟さんという方による「解説」があります。
私も、ゲイとして生まれ、ゲイであるというだけで自分を否定される体験を重ねる中で、自分を受け入れられるようになるまで、30年近くかかっている。(中略)私が生きている実感を持てるようになったのは、パートナーの簗瀬竜太と出会ってからだ。
くり返すが、この作品に描かれている、ゲイがおかれている状況は、アメリカにおいても、日本においてもリアルで、遠くでぼんやりと起きていることではない。
まだまだ日本のレズビアン/ゲイは、さまざまな生きにくさを抱えているということだ。(中略)お笑いやバラエティでいまだにからかい・軽蔑の対象となっている。ゲイのカップルが手をつないでいるシーンが現れれば、「笑っていい」という暗黙の了解さえある。幼稚園の子どもたちでさえ、そこから学習して、レズビアン/ゲイに対して心地よくない蔑称を平気で使う。
(「ニューヨーク・ニューヨーク」第2巻 解説より引用)
このマンガは2003年発刊なんですが、このブログを書くにあたって伊藤悟さんのお名前で検索したら、こんな記事を見つけました。解説にお名前のあった簗瀬竜太さんも記事に登場されます。おふたりは今も一緒にいるんだと知って、他人事ながら大変嬉しかったです。
並べて写真を撮ってみました。
3歳長男は特に違和感がないようです
長男は「タンタンタンゴはパパふたり」の絵本を気に入っていて何度か読み聞かせをしていますが、「パパがふたり」という点には特に違和感がないようです。
「(男の子ペンギンカップルには)なんで卵が産まれないの?」と聞かれて「男の子同士だからだよ」と答えたら「ふーん」と言っていました。
男の子ペンギン2羽が養子にもらった卵をかわるがわる温めて、卵から赤ちゃんペンギンが産まれるところでは、長男はとても嬉しそうです。
今後、長男もいろんな知識やものの見方(偏見も含む)を身につけていくのだろうと思いますが、できれば「パパふたりの家族もいるんだな」と自然に思ったまま育ってほしいな、と思います。
※こうした話をすると「そんな本を読ませて自分の息子がゲイになったらどうするんだ」という反応をされる方が一部いるようですが、私は基本的に性的指向はほぼ生得的なものと認識していて、私が何をどんな風に教えてもそれによって息子の性的指向が変わることはないと思っています。そして私が上述したような考えを持っていることによって、もし息子が少数派とされる性的指向を持っていた場合に「母親にカミングアウトしやすくなる」のであれば、それは歓迎したいです。
おまけ:ただの自慢話
これはただの自慢話ですが、先日私がRENTというミュージカルの”Tango: Maureen”という歌をリビングで熱唱していたら、3歳長男が「お母さん、いまTangoって言った?それってタンタンタンゴのタンゴ?」と質問してきました。英語の歌詞を聞き取っていることにも感動しましたし、「タンゴ」と聞いてまっさきにこの絵本を思い出すくらい気に入ってくれていることにも感動しました。うちの長男は天才。
タンタンタンゴの絵本の原作英語版も買っちゃおうかな。
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