おたまの日記

都内で働く二児の母(東大法学部卒)が、子育てしながら考えたことや読んだ本、お勧めしたいことを書いてます。

黒澤明『生きる』をミュージカルで見てきました。最高でした。

最高でした。

私は2018年の初演は見ていないのですが、当時は役者間の口コミや観客の口コミでどんどん評判が広がって大変な話題だったそうです。2020年の今回は「待望の再演」とのこと。

東京公演は10月28日で終わってしまいますが、その後、富山・兵庫・福岡・名古屋公演もあります。素晴らしい舞台だったので、観に行ける人は今からでもチケットを買うことをお勧めします。

www.ikiru-musical.com

 

ストーリー概要

有名すぎて誰もが何となく知っているストーリーだと思いますが、簡単に言えば「市役所勤めで忙しくも退屈な毎日を過ごしていた主人公・渡辺勘治が、胃ガンで半年の命と知って公園をつくる話」です。主人公が夜中にブランコの上で「命短し恋せよ乙女…」と歌うシーンはあまりにも有名です。

映画『生きる』は1952年に公開され、世界中で翻訳され「ヒューマニズムの頂点」と称賛されて不朽の名作と呼ばれています。

映画の始まり方がすごく印象的なんですよね。

これはこの物語の主人公の胃袋である

噴門部に胃癌の兆候が見えるが本人はまだそれを知らない

(中略)

これがこの物語の主人公である

しかし今この男について語るのは退屈なだけだ

なぜなら彼は時間をつぶしているだけだから

彼には生きた時間がない

つまり彼は生きているとは言えないからである

(映画『生きる』冒頭ナレーションより引用)

 

ミュージカル版、ネタバレなしの感想

・最高でした

・涙が出すぎてマスクの内側が濡れました

・主演の市村正親氏が前半ずっと「ああ…」「うん…」「土木課…」程度しか喋らなかったので、早く市村さんの美声をちゃんと聴きたいなあ…とうずうずしていたら、一幕目の終わりで200%満足しました

・カーテンコールで市村さんがそっと帽子を拾って出てきたのも最高でした

・ダブル主演の鹿賀丈史さんの回も観たい…(全然キャラが違うそうです)

私は映画版を見たときは感動したものの涙は出ませんでしたが、ミュージカル版はあまりに優れた演出・演技・歌声によって涙腺がゆるむゆるむ…

これから観にいかれる方はマスクが濡れることを覚悟して予備のマスクを持っていかれると良いと思います。

 

パンフレットは絶対に買うべき

2000円で買えます。ミュージカル版を見て感動された方は絶対に買うべきです。

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・コロナ禍で多くの舞台が中止になり、役者がどんな思いで生きてきたのか、この舞台を上演できることがどれほど嬉しいか、随所から伝わってくる

この数ヵ月は今まで生きることそのものだった「役」を奪われた状態だっただけに…(小説家役の小西遼生さんの言葉、公式パンフレットより引用)

私は春に上演できなかった『VIOLET』という舞台を9月に3日間だけ上演出来たんですけど、客席数は半分なのに、今まで聞いたことがないくらい大きな拍手をいただいたんです。お客様も私達と同じ気持ちだったんだな、って。(小田切とよ役の唯月ふうかさんの言葉、公式パンフレットより引用)

配信で、シーンとした客席の前で同じことをやるしんどさったらなかった。(助役を演じた山西惇さんの言葉、公式パンフレットより引用)

・市村正親さんの息子10歳が初演を観て泣いたエピソード、良い

幕が開いたら、初日からお客さんが本当に感動していることを肌で感じました。当時10歳だった長男も、最後のブランコのシーンで「ダメだよこの場面は、ズルいよ、泣けてきたもん!」って。それ以来、家にブランコを作って、歌ってますよ。(主演の市村正親さんの言葉、公式パンフレットより引用)

・市村正親さんと鹿賀丈史さんの対談がめちゃめちゃ面白い

・パンフレットによると、「ブロードウェイ進出を狙っている」とのこと。是非是非進出してほしいです。

 

ちなみに原作の映画『生きる』が来年イギリスでリメイクされるという大ニュースもあります!

 

コロナ禍の演劇、備忘録

・日生劇場の入り口で検温(自動)、手指消毒

・チケットはスタッフが目視で確認したのち、客が自分で切り取って箱に入れるスタイル

・エスカレーターは2段あけて乗るように看板+アナウンス

・座席はひとつ空けての販売(ほぼ完売だが、劇場は半分が空席ということ)

・劇場内ではずっとマスク着用のこと(ただし最低限の水分補給はしてくださいとアナウンスあり)

・役者はマスク無し、劇場スタッフは白いマスク、オケピの人々は黒いマスク着用、指揮者だけは透明なあごシールド(表情が見える必要があるのかな)

・オペラグラスの貸し出しは中止

・キャストへの声援は禁止(拍手だけにしてくださいとアナウンスあり)

・休憩時間にロビーでは出演役者たちによるビデオメッセ―ジ(密を避けましょう、など)が上映される

・「新型コロナウイルス感染症対応に伴う緊急連絡先ご登録」が必須で、終演までに登録が済んでいない観客にはスタッフから声をかけて確実に登録させていた(座席番号で把握している様子)

・帰りは混雑を避けるためにブロックごとに案内(終演直後、「お待ちください」のボードを持ったスタッフがあちこちに立つ。ボードを裏返すと「ご退出ください」になる)

・会話はお控えください、感想を話し合うのは劇場の外に出てからにしてくださいとアナウンスあり、休憩時間も終演後も静かな劇場。ざわめきがない。

 

映画版との違い(ネタバレあり)

・映画版では主人公の年齢は52~53歳、ミュージカル版では「まもなく60歳」(参照

・映画版は冒頭に「主人公が胃ガンである」ことがナレーションで明言されるが、ミュージカル版ではそれがない(予備知識なくミュージカル版を見たら、「この人、本当は胃潰瘍なんじゃないの?」と思うかも)

・通いの家政婦が映画版では若い女性、ミュージカル版ではかなりの高齢女性

・小説家が映画版ではメフィストフェレス的な役割のみで一晩だけ登場するが、ミュージカル版では最後までストーリーテラーとして重要な役割を果たす。助役とヤクザの写真を撮って脅して公園建設発表を約束させたり、葬式の後に息子を公園に連れ出して父親の最期の姿を教えたり、大活躍

・小田切とよ(主人公の部下の女性)も映画版では途中までしか出てこない(葬式にも来ない)が、ミュージカル版では最後まで重要な役割を果たす

・映画版では主人公が死ぬ前に実現することとしてなぜ公園建設だったのかの理由は明示されない(たまたま陳情書が目にとまったから?)が、ミュージカル版では「母親を亡くして笑わなくなった息子が初めて笑ってくれたのが公園のブランコで背中を押してあげたときだったから」という理由がある

・しかも息子の妻が妊娠中なので、産まれてくる孫のためにも公園を…という理由も想像させられる(映画版では嫁の妊娠は描かれない)

・映画版では助役が「選挙目当てで」公園をつくることにするが、ミュージカル版では助役が小説家に「脅迫されて」公園建設を発表する

・映画版では「命短し恋せよ乙女」を主人公が盛り場で歌うシーンがあるが、ミュージカル版ではそのシーンは無い。最期に公園のブランコで歌うのは映画版もミュージカル版も同じ。

 

余談

家でパンフレットを眺めていたら3歳長男が「それなに?」と言うので、『生きる』というミュージカルを観てきてね…と話しました。すると長男が「ああ、谷川俊太郎ね」と。

そうか、長男にとって「生きる」といえば谷川俊太郎なんだ…とびっくりしました。

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追記:もう観にいかれた方が

なんと、私の朝の投稿をみてその日の午後にミュージカル『生きる』を観にいかれた方がいます。すごい行動力ですね…!

 

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