『奇跡のフォント』という本を読みました。
UDデジタル教科書体というフォント(UD=ユニバーサルデザインです)がどうやって開発されたのか、その8年にわたる開発物語。ノンフィクションです。
この本の著者である高田裕美さんが2019年4月にTwitterに投稿したエピソードが2万件以上リツイートされたと「はじめに」で書かれていたので、Twitterを検索して見つけました。こちらですね。
自分をバカだと思ってしまうほどの切ない体験をどれだけしてきたのかと、今まで放置されてきた書体環境に胸が締め付けられ、タイプデザイナーとして申し訳ない気持ちでいっぱいになった。きっと書体を変えただけでなく、支援者の方が子どもに寄り添い、その子が読みやすい組版を提供したのだろう。(続
— Yumi Takata (@Yumit_419) April 3, 2019
「文字が読めない」ことのつらさと、文字をストレスなく読めることのありがたさ
私自身は文字を読むのは得意なほうで視力も良いので、これまで文字や文章を読むことに特に苦労したことはありません。その分フォントに対するこだわりもあまりなく、「文字なんて読めれば十分」「文字そのものより書いてある内容が気になる」と思っていました。
この本を読んだことで、万人に合うフォントは存在しないこと、一般に使われているフォントでは文字を読むことができない人たちがいること、文字が読めないことで学習や生活に大きな支障が出ること、そしてユニバーサルデザインのフォントを生み出す大変さを知ることができました。
この本で紹介されていたVision Simulatorという無料アプリ(慶応義塾大学の中野泰志教授が作成)を使うと、ロービジョン(弱視)の人たちの多様な見え方を疑似体験できます。
このスクショは「文字がぼやけて見えづらい」の例ですが、ほかにもいろんな見えづらさを体験できるのでお勧めです。
初めて知った「教科書体」
そして「教科書体」というフォントの存在を初めて知りました。
明朝体もゴシック体も、よくよく見てみると「書き順通りにちゃんと書かれた手書き文字」とは違うんですね。「山」とか「令」とか。(この違いはこの本のp121を見るとよくわかります)
子供が正しい画数や運筆(字を書く時の筆の運び方)を学ぶためには「教科書体」と呼ばれるフォントが必要です。これを知ってから息子の小学校の国語の教科書を見てみたら、「ほんとだ!!!」と感動しました。
さらにロービジョンの子どもたちのための「UDデジタル教科書体」(=見えやすくて、正しい漢字を覚えやすいフォント)が必要だと。なるほど…全然知らなかった…。
UDデジタル教科書体は、
・ほかの教科書体よりも読みやすい(主観的な評価)
・「読みの速度」を調べる実験では、読みが苦手な子の読みの速度が約9%早まった
とのことで、奈良県生駒市のすべての小中学校に導入されるなど教育現場での導入も進んでいるそうです。
私のPCでWordを開いてみたら普通にはいってました。UDデジタル教科書体。これは使いたくなっちゃいますね。
結構多い、ディスレクシア(発達性読み書き障害)
日本語話者の5~8%はディスレクシアなど何らかの「学びにくさ」があるとのことで、小学校の1クラス(35人)のなかに2~3人はなにかしら読み書きに困難を抱える子どもたちがいる可能性がある。そう考えると、私自身はこれまで読み書きに困難を感じたことはなくても、息子たちは該当するかもしれないし、息子たちの身近なところにもそういう子がいるはずなんですね。
ちなみにアメリカでは各学校にいるディスレクシアの子どもの人数に応じて教育予算が多くおりるので、現場の教育関係者はディスレクシアの子の有無に敏感だそうです。(p190、奥村智人氏のコラムより)
日本でもディスレクシアの子がいたら学校の教育予算を増やすようにできたら良いですよね。
いろんな教材
UDデジタル教科書体で英語やひらがなや漢字を学べる教材を無料で提供されています。見ているだけでも面白いです。
科目別教材まとめ | FONT SWITCH PROJECT
ひらがな学習応援教材は村中直人先生が作成に協力されたとのこと。私は村中先生の本を2冊読んですっかりファンなので、この本や教材で村中先生のお名前を見て嬉しくなっちゃいました。
村中先生の本を読んだ時のブログ:
「叱る依存」の本がとても良かったです - おたまの日記 (shiratamaotama.com)
「ニューロダイバーシティ」、初耳だったけど最高の概念でした - おたまの日記 (shiratamaotama.com)
アルファベットには書き順がない
余談ですが、この本のp213を読んで「アルファベットには正しい書き順はない」ということを初めて知りました。私は小中学生の頃に「W」は4画で教わった記憶があるのですが、アルファベットは日本語のような「正しい書き順」があるわけではないので書きやすい順で書いてよいとのこと。私も大人になるにつれて面倒になって「W」を一筆書きで書くようになってしまったのですが、ずっと謎の罪悪感を感じていました。この本のおかげでもう罪悪感を感じることなく、堂々と一筆書きでWを書けるようになりました。嬉しいです。
おまけ:解説動画
著者がUDデジタル教科書体について解説している動画を発見しました。これは前編で、9分30秒くらいで見られますのでご関心ある方は是非どうぞ。後編もあります。
動画はとってもコンパクトですが、ここまでこのブログを読んでくださった方には、個人的には是非とも『奇跡のフォント』の本を読んでいただきたいです。
これを1冊読むと、身の回りにある文字への理解度・解像度がぐっと上がって残りの人生がますます楽しくなると思います。
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