おたまの日記

都内で働く二児の母(東大法学部卒)が、子育てしながら考えたことや読んだ本、お勧めしたいことを書いてます。

発達障害は予防できる、という希望

ミケランジェロ、ニュートン、ゴッホ、アインシュタイン、ダーウィンといった「天才」には発達障害(発達凸凹)があったと言われています。

 

最初に天才と発達凸凹という問題を取り上げるが、あらかじめ結論を述べれば、天才と呼ばれた人には高頻度に発達凸凹が見出されるが、大多数の発達凸凹は天才ではない、という何とも常識的なところにおさまる。(『発達障害のいま』p66)

 

杉山登志郎著『発達障害のいま』を読みました。素晴らしい本でした。久しぶりに知的興奮で震えました。

杉山先生は、「子ども虐待の症例の中に、数多くの発達障害の診断が可能な子どもたちがいる」ことを初めて指摘した人です。虐待によるトラウマは、発達障害の最大の憎悪因子であるとのこと。

 

知的興奮で震えました

私は発達障害についてまったく無知な状態でこの本を読んだんですが、本当に本当に本当に勉強になりました。こうしたテーマの本に「面白い」という表現を使って良いのか分かりませんが、非常に面白かったです。

面白さの種類としては、名著『脳の中の幽霊』や『利己的な遺伝子』を読んだ時のものに近かったです。まだ解明されきっていない人の脳の機能の不思議や遺伝子の働きなど、自分は人間なのに人間のことをこんなにも知らないのだ、まだ分からないことが多いのだ、そしてここまで分かっているのだ、と解き明かしていくような知的興奮を覚えました。

 

発達障害・発達凸凹の必読書

そして面白いだけでなく、読み終える頃には発達障害・発達凸凹(でこぼこ)についての知識を豊富に得ることができました。

杉山先生は発達障害分野で高名な先生ですが、専門家が書いた一般向けの本とはかくあるべき、というのを見せていただいたような気がします。

「発達凸凹」という言葉は杉山先生の造語で、「発達障害はマイナスとは限らない」ことを示しています。認知・学習における高い峰と低い谷の両者があるとのこと。発達凸凹が発達障害にならないように、親にも社会にもできることがあるというのです。

・「峰を伸ばすための対応」:才能児のための特別支援教育(欧米で進んでいる)

・「谷を補うための対応」:知的ハンディキャップを持つ子どもたちへの特別支援教育(実は才能児のための特別支援教育の手法を活用できる)

 

私がこの本を読もうと思った理由

もともとこの本を読もうと思ったのは、先日読んだ本『親の脳を癒やせば子どもの脳は変わる』の巻末に掲載されていた著者と杉山先生の対談が面白かった、ということでした。

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私がこの本のおかげで初めて知って驚いたこと

①父親の高齢化で発達障害が増加

近年、発達障害は世界的に増加しているとのこと。要因のひとつは結婚年齢の高齢化(父親の年齢)です。

脱線であるが、こんな議論をすると原因は女性のほうにあると考えがちであるが、実は逆である。低出生体重はさまざまな発達障害、あとで述べる発達凸凹(でこぼこ)の要因になる。低出生体重にもっとも関係するのは胎盤の重さである。この胎盤の重さに関係が認められるのは、母親の年齢ではなく、父親の年齢なのだ。(p39)

高齢出産は障害のリスクが…とよく聞きますが、「父親の年齢が高い→胎盤が小さくなる→低出生体重→発達障害」という関係性は初めて知りました(もちろん、父親の年齢はリスクのひとつでしかないので障害と絶対の関係ではありません)。胎盤は母親の体の中でできるものなのに、父親側の要因がこんなにも影響してくるんですね。

 

②国際的な診断のぶれが問題になっている

日本では自閉症スペクトラム障害と診断される子が、米国ではADHDと診断されがち。(日本での自閉症スペクトラム障害の大発生に対して、アメリカではADHDの大発生が生じている、とのこと)

この診断の差には、社会的な行動にうるさいわが国と、自己主張を幼児期から求められるアメリカという文化の差が影響している。しかし実はそれ以上に大きな影響を与えている要因がある。それは医療保険の違いである。(p53)

これは本当にびっくりしました。同じ子どもでも、どの国で診断されるかによって結果が変わってくるというのです。そしてもちろん診断が変われば治療法も治療薬も異なります。「アメリカにおいて新薬が速やかに使えるシステムが作られている裏側には、医療保険会社の強い強い政治への圧力ということもある」とのこと。ひええ。

※なお、 2013年に米国精神医学会の診断ガイドラインが大幅に変更になり、自閉症スペクトラムという概念が正式な診断名になるなど再編成が進んでいるそうです。教えて頂いたkilometerさん、ありがとうございます!

 

③人間には2タイプある

人間には、言語で認知することが得意なタイプ(聴覚言語優位型)と、映像イメージで認知することが得意なタイプ(視覚映像優位型)があるとのこと。語学や国語の教師は聴覚優位の場合が多く、「分からなかったら何回でも読んでみよう。そのうち分かるようになる」と言いがちです。しかし、視覚優位の子どもは、何回読んでも分からないままだそうです。子どものなかに映像でのイメージができなければ、理解できないのです。(p70)

これは本当に目からウロコでした。たぶん私も聴覚言語優位型なんですが、この世には視覚映像優位型の子どもも大人もいて、私と同じようには言葉を認知しない、というのは私にとって新たな発見でした。我が子がどちらのタイプかまだ分かりませんが、もし視覚映像優位型だった場合には、「視覚優位な子どもへの教え方」をしなければならないのです。

そしてp73には視覚優位の子どもたちへの教材の例が掲載されているのですが、私はこれを見て最近流行りのグラフィックレコーディングを思い出しました。もしかしてグラレコが普及すると、これまで生きづらさを感じていた人たちがものごとを理解しやすい社会になるのかもしれません。

 

④虐待によるトラウマのすさまじさ、しかし「治せる」という希望 

この本では、杉山先生が虐待を受けた子どもの治療にあたった豊富な臨床経験に基づいた記載が多くあります。虐待は「心の複雑骨折」を引き起こすと書かれています。

そして、重症の子どもに安全な生活を確保し、数年間の治療をおこない、通常クラスで生活ができるまでに治癒した症例も書かれています。

 

⑤不登校とひきこもりの背景に自閉症が

あいち小児センター心療科は不登校外来を設けているが、不登校を主訴として受診した児童、青年の実に半数以上が知的に遅れのない自閉症スペクトラム障害であり、その大半は発達障害診断を受けていなかった。(中略)

自閉症スペクトラム障害を基盤にもつ不登校児に、他の不登校症例と同じ対応をされてしまい、「行く気になるまで待ちましょう」という方針が取られると、あっという間に、そのまま義務教育の年限を超えてしまうということが実にしばしば生じる。(p163)

そして不登校がひきこもりにつながることも多いそうです。筆者は「学校以外のどの場所で、原則として無料で、社会的規範や対人関係のルールを学ぶ場があるだろうか」と言い、発達障害の子どもが「学校に行く」ことの重要性を指摘します。無理やり行かせるということではなく、発達障害をきちんと診断して積極的に介入することが必要なのです。そして親にも発達障害がある場合も少なくないので、親への支援も重要です。

 

まとめ

筆者はこのほかにも、統合失調症と診断されてきた青年の中には自閉症スペクトラム障害が少なからず混入しているはず、等の問題意識を表明されています。また、アスペ系の校長先生が極度の思い込みから全校生徒に毎朝のランニングを強制した事例や、クレーマーには発達凸凹や虐待をうけた人が少なくない(ので、モンスターペアレントへの対処法は実は発達凸凹の子どもに対応するのと同じ方法が良い)といったアドバイスが書かれています。

発達凸凹のある人は大人にも子どもにもたくさんいて、早期の診断・介入が本人にとっても社会にとっても重要なんだなと実感しました。

さらに、発達凸凹の子どもがこだわりや儀式行為をすることは原則として放置して良いが、その儀式行為を母親が手伝うように要求したときには決して応じてはならない(エスカレートしてしまうので)とか、抗精神病薬を3歳前後の子どもに使うときの少量処方とか、私にとっては初めて知ることばかりでした。

発達凸凹を持つ人が、適切な診断と、適切な治療と、適切な支援に、迅速にアクセスできる社会になってほしいです。

 

最後にこれだけ引用して終わります。

発達障害の予防はできるだろうか。筆者はそれは、発達凸凹のレベルに留めることによって可能であると思う。繰り返しになるが、凸凹レベルの場合、それはマイナスではない。

さまざまな発達凸凹がむしろ社会を支える原動力になる時代が来ることを祈りたい。(p252)

 

 

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