友田明美著『子どもの脳を傷つける親たち』を読みました。
耳の痛いことが多かったです。。
著者は子どもの発達に関する臨床研究を30年近くつづけてきた小児精神科医で、この本の内容紹介にはこのように書いてあります。
「子どもの前での夫婦喧嘩」、「心ない言葉」、「スマホ・ネグレクト」に「きょうだい間の差別」──。
マルトリートメント(不適切な養育)が子どもの脳を「物理的」に傷つけ、学習欲の低下や非行、うつや統合失調症などの病を引き起こすことが明らかになった。脳研究に取り組む小児精神科医が、科学的見地から子どもの脳を解明し、傷つきから守る方途と、健全なこころの発達に不可欠である愛着形成の重要性を説く。
マルトリートメントとは?虐待のこと?
マルトリートメントとは、「虐待」よりも広い意味で「不適切な養育」を指す用語です。「大人の側に加害の意図があるか否かにかかわらず、子どもが傷つく行為は、すべてマルトリートメント」とのことです。
どんな親にもマルトリートメントの経験があるはず、と書かれており、私にも心当たりがあります。長男のイヤイヤに心折れて衝動的に長男の頭を叩いてしまったり、「何やってるの!!」と大声で怒鳴ったりしたこともあります。これはいずれもマルトリートメントにあたります。
マルトリートメントの悪影響
まったくマルトリートメントがない家庭は存在しない。でも、マルトリートメントの強度や頻度が増していくと、子どもの脳に深刻なダメージを与えるおそれがあるそうです。
子供時代に受けたマルトリートメントが脳に影響を及ぼし、学習意欲の低下や非行、うつ病や摂食障害、統合失調症などの精神疾患が出現/悪化することが明らかになってきているとのこと。
子どもの前で夫婦げんかをしてはいけない
私も、子どもの前でけんかはいけない…と重々承知していながらも、ついつい声を荒げてしまうことがあります。
しかしこの本によると、
実際、ハーバード大学の女子学生を対象に調査を行ったさい、幼いころに両親の夫婦げんかを見て育った人たちのグループは、そうでないグループと比べ、IQ(知能指数)と記憶力の平均点が低いという結果を得ています。
とのこと。
まあIQと記憶力が低いといってもハーバード大学に入学できるほどなのですが…。
そして両親間の身体的な暴力を目撃したときよりも、言葉の暴力に接したときのほうが、脳へのダメージは大きいことがわかっているそうです。
子どもの前でのけんか、本当に気を付けようと改めて思いました。実際、2歳長男は隣の家から子どもが叱られている声が聞こえるだけでも不安な顔をします。
子ども虐待の社会的コスト
なお、子どもがマルトリートメント(不適切な養育≒虐待)を受けることで、社会にとっても大きな損失が起こります。この社会損失を費用換算すると日本では1.6兆円/年にもなるそうです。
子ども虐待による死亡・傷病関連、学力に伴う生産性損失、離婚、犯罪、生活保護の項目から算出した社会福祉関連、および医療費等の公的経費は、年間1兆6千億円 (2012年のデータによる試算)にものぼるとされています。
「子どもの脳を傷つける親たち」p16より引用(花園大学の和田一郎氏による調査)
「虐待を受ける子どもが可哀そう!」という観点だけでなく、虐待を防ぐことは社会全体にとっても利益がある(=つまり、虐待予防に投資する価値がある)ということは意識したいなと思います。
子どもに積極的に使いたい3つのコミュニケーション
①繰り返す:子どもの適切なセリフを繰り返すことで、「話を聞いて理解してくれている」と子どもに伝わる
②行動を言葉にする:子どもの適切な行動(例:絵本を棚に戻す)に対し「あら!お片付けしてるのね」と言葉がけすることで、興味関心を示していることが伝わる
③具体的に褒める:「お友達におもちゃを貸してあげられたんだ。えらいね!」と具体的に褒めることで、よい行動を増やす効果がある
本書p182~183の記述です。積極的に使っていきます!!
逆に、①命令や指示、②不必要な質問、③禁止や否定的な表現、はなるべく避けたほうが良いとのこと。詳しくは是非本書を読んでください。
今後に期待
そしてこの著者の友田先生がJSTの研究開発プロジェクトで、面白い結果を出されています。
大きな育児ストレスが母親の脳の機能を低下させ、結果的に子育てを困難にしてしまうことがあるとのこと。この「脳の機能低下」をMRIで計測、評価しています。
共同発表:子育て中の母親ら養育者の抑うつ気分を見える化して子育て困難の予防を図る~社会脳の活動を計測し養育ストレスが深刻化する前兆を早期発見する評価法の開発~
いまはストレスをMRIで測っているので、かなり計測のハードルが高いですが、今後MRIよりももっと安くて手軽な装置でストレスを計測できるようになると、ストレスが深刻化する前に発見し、適切な対応(夫や周囲の協力、子どもの一次預かりなど?)がとれるようになりそうだなと思います。
育児のストレスは日々蓄積していくし、極限的にストレス状態にある養育者(多くの場合、母親)にとっては、自分自身がどれほどストレス状態にあるのかきちんと把握して対処することが難しいだろうと思います。そして、妻のストレス状態を夫が把握するのもなかなか難しそう。
こうした技術が実用化されることで、客観的にストレス状態を可視化でき、本当に危ない人には公的・私的な助けがすぐに提供されるようになると良いな…と思いました。
是非読んでください
この本、非常に分かりやすく面白く、そして具体的なアドバイスが載っているのでとてもオススメです。是非読んでください!
【2020年5月15日追記】
友田先生が新しい本を出されました。こちらは、子どもの脳を傷つける親たちの脳も傷ついている、親の脳を癒やすことが重要、という本です。こちらもオススメです。
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