2020年3月20日(金)に放送されたNHK『AI美空ひばり あなたはどう思いますか』を視聴しました。たった53分間の番組ですが、ものすごく面白くて、学びも多かったです。
NHKサイト: AI美空ひばり あなたはどう思いますか - NHK
AI美空ひばりの新曲「あれから」
AIで再現された美空ひばりさんが、新曲「あれから」を披露したコンサートでは、観客のおばあさんが「本当にひばりちゃんに会えて…生きてて良かった」などと涙を流すシーンもありました。
※「あれから」のミュージックビデオをYouTubeで見ることができます。3分過ぎから、AI美空ひばりのセリフシーンが少し映ります
AI美空ひばりを見て私がもった感想
・AI、すごい!
・すごくリアルだけど、ちょっと動きにぎこちなさがあるので「本物の人間」には感じない
・でも歌声はきれいだし、「あれから」は良い歌だと思う
・美空ひばりってこういう人なんだ!(本人の映像をちゃんと見たことがなかったので…)
このあたり、ご本人を知ってる人との世代差がありそうだなと思います。
私は1988年生まれで美空ひばりさんは1989年に亡くなっているので、私は美空ひばりの歌をリアルタイムで聴いた記憶はありません。だからAI美空ひばりをみて「懐かしい」「感動」という感情は抱きません。「AI、すごいな」という感想になりました。「この歳になって美空ひばりちゃんの新曲が聞けるなんて…」と感動して泣いているおばあさんたちを見ると、羨ましい気持ちになります。
一方で、ご本人を知っている人のほうがAI美空ひばりを厳しい目で見るのだろうなとも思います。例えば番組内では、ミッツ・マングローブさんが「似てない」「あんなおどおどして歌わない」「マイクの握り方も違う」と違和感をいくつも指摘されていました。
私は本物の美空ひばりさんに思い出も思い入れもないので、気楽にAI美空ひばりをみて「おもしろーい」「すごい」と感じることができたのかもしれません。
AI美空ひばりのプロジェクトについて
AIで美空ひばりをよみがえらせるプロジェクトは、遺族の協力を得て2018年に開始されました。かつての仲間たちが集まったそうです。
・歌声はヤマハAIチーム
・秋元康さんが新曲をプロデュース
・振り付けは天童よしみさん
・衣装は森英恵さん
ビートたけしさんのコメントがすごく良かったです
※ビートたけしさんは、紅白歌合戦でAI美空ひばりと同じステージに立ちました
・俺はこの歌好きだし、きれいだなと思う
・あえて言えば、本当に美空さんに歌ってほしかった。生で聞きたかった。
・AI美空ひばりを「冒涜」という人がいるそうだけど、じゃあコロッケがモノマネするのは冒涜なの?
・機械的なものが実際の人間に関わってくるといけないのか?例えばペースメーカー入れてる人に「お前インチキだ」といえるのか?
・時代が変わる、ということ。目くじら立てて怒ることではない。
つんく♂さんのコメントも鋭かった
・正直、「よくできてる」と思う
・でもひばりさんだから成り立つもの。「美空ひばり」が世間のみんなの頭の中にあるから成立する。もとを知らなければ、単なるボーカロイドとの分け隔てができないだろう
・ガンで声帯を切除した自分の声をAIで再現したいか?と問われて→否定はしない
音楽家、大友良英さんのコメントも面白かった
・たいしたものですよ
・でも、死んだ人を再現するのはフェアじゃない。
・生きてる人をAIで再現して、本人と対話させてほしい。「俺、こんなずらし方しないよ」とか、本人がNG出せたほうが良い。(ここで、自己像とのずれが見つかるのも面白そう)
音楽家、渋谷慶一郎さんの懸念とエピソード
・やってはならないことをした。「がんばりましたね」など、AI美空ひばりにセリフを言わせたのは良くない。宗教や、大衆操作になりかねない。
・アンドロイドがオーケストラの指揮をした際のエピソード。ある日偶然、肩の上げ下げをプログラムに足したら、第一バイオリンの女性が「あ!なんかこれなら一緒にできそうです」「呼吸しているみたいに見えるからです」と。実際に呼吸しているかどうかではなく、呼吸していると感じられることが大事。
NHKによるTwitter分析
3つのタイミングでAI美空ひばりについてのTweetが増えたそうです:
・NHKスペシャル「AI美空ひばり」放送(2019年9月)
・シングルCD「あれから」リリース(12月18日)
・紅白歌合戦にAI美空ひばりが登場(12月31日)
Tweet内容を分析すると、2019年内は「感動」などポジティブな言葉が多かったが、年明け以降、ネガティブな言葉が増えた(「冒涜」など)とのこと。
番組内では、この理由として下記のような意見が出ました。
・NHKスペシャルでは、「誰が何のためにAIで美空ひばりを再現するのか」というストーリーを見せたことで共感を得られたのではないか
・CDリリースでお金の匂いを感じたのではないか
7歳で死んだ娘をAIで再現して母親に再会させる韓国のプロジェクト
・韓国のテレビ局が2020年2月に放送した番組「あなたに会えた」で、死んだ娘(ナヨンちゃん)をAIで再現して母親に再会させた
・ナヨンちゃんは血液のガンと診断され、発症からわずか一ヵ月で亡くなった(7歳だった)
・ナヨンちゃんの音声データ(合計1分しかなかった)に、同年代の子ども5人の声を組み合わせて声を再現
・体型の似た子どもを使ってCGを作成、ナヨンちゃんのしぐさをCGに落とし込む
・開発から半年、母親との対面。バーチャル空間でつくりだした公園で、「ママ!」と呼びながら近づいてくるナヨンちゃん。母親はナヨンちゃんに手を伸ばすが、触ることはできない。「会いたかったよ」と泣く母親。
・お母さんを慰めることが目的だったが、トラウマを起こすのではないかという心配もあった(放送後、とりあえず問題はなかったとのこと)
・CGでの再現度がまだ低いからこそ、「良い思い出」で済んだのではないか
・もっと技術が進んだら…トラウマになりうる?
「ナヨンちゃん」をみて私が思ったこと
・選択肢があることの難しさ(家族を亡くして、AIで再現された家族ともう一度会うかどうかを選択しなければならない)
・成長しない我が子と再会するのはつらくないんだろうか。
・触れられたら良いのに。ナヨンちゃんに触れようとして空を切るお母さんの手が悲しかった。
・では、「成長する」「触れられる」ロボットが技術的に可能になったら、私はその子を我が子の代わりに育てたいと思うのか?
・思わないとしたら、なぜだろう。血が繋がってないから?でも人間の養子なら愛せるはず。クローンでもいけそう。生物にできてロボットにできないこと…生殖?ロボットは孫を産んでくれないから?では一定年齢に達すれば生殖可能になるロボットならいいのか?え、人間ってなに?生物ってなに??
・ナヨンちゃんのお父さんは登場しなかったけど、お父さんもAIナヨンちゃんに会いたかったんだろうか。ここに男女差はあるんだろうか。
東京大学大学院の松尾豊教授(AI研究の第一人者)のコメントで面白かったこと
・映像の加工技術は、政治利用が怖い。映像をちょっと加工することで好感度を調整できる。例えばネクタイの色や表情など、自分の陣営は少し好感度の高いものに、相手陣営は少し好感度の低いものにして放送すれば、ほとんど気づかれることなく印象操作することが可能になる
・これまでのAI研究において、会話には「間」や「調子」が大事だ、という問題設定がほとんどなかった。理由の一つは、AIの開発者に男性が多いからではないか。
まとめ
番組では、この他にも手塚治虫の新作マンガ「ぱいどん」(AIと人間の共同作業でつくられた漫画)などの紹介もありました。いやー面白かったです。これだけの情報量をたった50分で得られるなんて、さすがNHK。
まとめといいつつ全然まとまらなくてすいません。今後わたしが人と議論するときに、このブログは参照用のメモとして使いたいのでこんな構成&内容になりました。
なお、発言者のコメントは私が適当に書き留めたものなので、完璧な書き起こしではありません。ご了承ください!
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