水島広子著『対人関係療法で改善する夫婦・パートナー関係』を読みました。とても良い本でした。今後、自分が夫婦関係に悩んだらまた読み返そうと思います。
著者は精神科医として対人関係療法を用いてうつ病や摂食障害等の患者を治療されてきた経験から、夫婦・パートナー関係は「私たちの心に最も大きな影響を与える人間関係だ」といいます。この本では、「病気を持つ方も持たない方も、あらゆる夫婦・パートナー関係に普遍化できる部分をまとめた」とのことです。
タイトルからして「対人関係療法」という聞いたことのない言葉が使われていたので専門書かと思いましたが、本を開いてみたらまるで著者にカウンセリングを受けているような気持ちでするすると読み進めることができました。
夫婦関係の選択肢3つ
自分は夫婦関係をどうしたいのか?
1.このままでよい
2.関係を改善するために努力する
3.今すぐ別れる
(p46より引用)
対人関係療法で夫婦面接をするときに最初にする質問とのこと。多くの夫婦は「2」と答えるそうです。そして「2」であるということを、自分でもしっかり認識することが大切なんだろうなと思いました。
「1」の人はこの本を読む必要はありませんが、「2」の人にも「3」の人にもこの本は役立つと思います。
夫婦関係はすごく重要
そもそも、対人関係療法が開発された際に基盤となったデータの一つに、「人がうつ病になる前に最もよく見られた出来事は夫婦間不和」というものがあります。(中略)それほど、夫婦・パートナー関係は人の心に大きな影響を与えます。(p15)
分かります。夫婦関係が自分の心に与える影響は非常に大きいと思います。
そして下記を読んで我が身を振り返って、ちょっと反省しました。
よその人に対してはよくほめるのに、パートナーのことは最後にいつほめたか思い出せない、などということもあるでしょう。ほめるどころか、毎日責めてばかりかもしれません。最も重要な相手のことをほめもせず責めてばかり、というのは考えてみれば変なことなのですが、日頃のなれ合いの中、「まあ、本当は相手のことを大切に思っているとわかってくれているだろう」という妙な甘えがあるのです。「だって夫婦なのだから」という無意識の前提があるからでしょう。
(p37より引用)
私がとても勉強になったこと
・「最も大切な相談相手は?」という問いに、女性では「配偶者」と答えずに「友人」「姉妹」「母親」と答える人が多く、男性では「配偶者」もしくは「相談相手はいない」と答える人が多い(男性は相談の習慣があまりないということかもしれない)(p30)
・夫婦の共有時間は驚くほど少ない。日中は仕事、家事や育児は「一緒にする」のではなく「分担」しているので、実は夫婦で時間を共有しないままにバタバタと生活している。共有している時間や体験が少ないので、年月の経過の中で「ずれて」きてしまう。(p36)
・あらゆる対人ストレスを「役割期待のずれ」としてとらえる。「相手の人格の問題」ではない。(p49)
・自分は相手のことを知っているという思いこみを手放す。「なぜ相手はこういうことをする(言う)のだろうか」ということを、決めつけずに相手に聞いてみるという姿勢が重要(p51)
子育てにも役立ちそうなこと:「ただ聞いてもらう」=「安全な環境」
他人との間にストレスを抱えているとき、「ただ聞いてもらう」ことは非常に重要とのことです。
安全な相手に自分の話をして、「そんな目に遭ったの。大変だったね」などと感じ方を肯定してもらうと、「こう感じていて良いのだ」と安心し、自己正当化にエネルギーを使わなくてすむようになりますから、結果として自分の感情へのとらわれがゆるみ、客観的な見方が可能になる、ということが起こってくるのです。そんなふうに、ただ共感的に聞くということにはとても大きな力があります。
(p60)
このとき、共感的に聞かないですぐにアドバイスしたり「相手にも言い分があるんだろう」などと言ってしまうと、「安全」を感じられず、ますますネガティブな感情がふくれてしまうそうです。
なお、「感じ方の肯定」と、「自分も一緒になって怒る」とは違うということにも注意が必要です。聞く側が一緒になって怒る必要はありません。ただ「それは大変だね」などと感じ方を肯定してあげれば十分とのこと。
この「ただ聞いてもらう」「安全な環境」を、夫にも息子たちにも提供してあげたいなと思いました。
私の母は、こうした傾聴がとても上手だったと思います。以前ブログにも書いていました。
「一字一句の再現」には意味がありそう
対人関係療法には「コミュニケーション分析」という技法があり、重要な会話を丁寧に振り返っていきます。感情に影響を与えたような会話(夫婦げんかなど)を、始めから終わりまで、一字一句に至るまで細かく再現し、それについての本人の受け止め方もあわせて聞いていくのです。相手はどんな言葉で何を言ったのか、そう言われて自分はどう思ったのか、相手はなぜそんなことを言ったと思うか、自分はどういう言葉で何を言ったのか、本当に言いたかったのはそういうことなのか、相手はそれを聞いてどう思ったと思うか、というようなことを詳細に見ていくのです。(p70)
これ、女友達との会話で非常によくある話だと思いました。「彼がそのとき〇〇と言ったんだけど、私は〇〇と思ったから〇〇と言ったのね、そしたら彼が〇〇と言うから驚いて、私は〇〇と言って…」のような、一字一句の再現です。もちろん素人同士の会話なので対人関係療法の治療に匹敵するものとは言えませんが、この会話を信頼できる女友達とすることによってストレスが解消されたり問題点に自分で気づいたりするのだな、と思いました。この話し方をする男性には会ったことがないような気がしますが、女性のほうがこういう一字一句の再現が好きなんでしょうか。
女友達だけでなく、夫婦間でも自分たちのコミュニケーションの振り返りができると良いのかもしれませんね。
もう書ききれない
本書には具体的なアドバイス・工夫が多く掲載されています。下記はごく一部の例です。
・「攻撃」をやめて「期待」を伝えること
・相手の話は最後まで聞く
・相手を変えるのではなく行動を変えてもらう
・話し合いの習慣をつくる
また、夫婦・パートナー関係が子どもに与える影響や、子どもとの相性の話(p158~)、別れが必要なときに確認すべきこと(p166~)など、丁寧に書いてあります。
すごく良い本だなと思うので、関心がある方は是非読んでみてください。
本当は自分用にまとめを作ろうと思ってブログを書き始めたんですが、この先夫婦関係に悩んだら自分のまとめを読むよりもこの本をそのまま読んだ方がすっと心にはいってきそうだなと思いました。語り口がとても良いので、読んでいると優しい気持ちになります。
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