おたまの日記

都内で働く二児の母(東大法学部卒)が、子育てしながら考えたことや読んだ本、お勧めしたいことを書いてます。

痴漢は、依存症です。『男が痴漢になる理由』

斉藤章佳著『男が痴漢になる理由』を読みました。著者は男性で、性犯罪・依存症の専門家です。

(痴漢がテーマの本というと「女性が男性を責める本」だと思い込んで読まない人がいそうなので、あえて著者は男性ですと明記してみました。この本は、痴漢加害者の治療に取り組む専門家が真剣に書いた、とても冷静で、客観的で、説得的な本です) 

 

帯にはこのように書いてあります。

これらの「痴漢像」、すべて誤解です

・痴漢は女性に相手にされない、さみしい男である

・性欲をコントロールできないから、痴漢に走る

・肌を露出した女性は、痴漢に狙われやすい

・電車内に防犯カメラを搭載すれば、痴漢は減る

・痴漢よりも、冤罪事件が問題だ

実態を見誤っているうちは、痴漢は減らない!

そして本書の冒頭で、痴漢の被害者には男性もいることや、痴漢は電車内以外でも発生することに統計を引用して丁寧に触れつつ、最も数の多い「電車内で男性が女性に痴漢する」行為について主に取り扱っています。

痴漢の認知件数は東京で1日5件程度。ただし警察庁調査によると痴漢被害女性の9割近くが泣き寝入りしているとのことなので、単純に考えれば東京で1日に50件近い痴漢被害が発生していることになります。(詳しくは本書p22)

私はすべての電車内に防犯カメラが設置されれば痴漢は激減するに違いないと思っていたので、本書を読んで結構ショックを受けました。防犯カメラの設置によって、痴漢の難易度が上がることに「燃える」痴漢がいるそうです。(詳しくは本書p112)

 

目次

 

平凡な男性が、ストレスと偶然をきっかけに痴漢になる

特に痴漢は、いってみれば”平凡”な人ばかりです。両親から愛情を受けて特に不自由なく育ち、四年制大学を卒業して就職し、結婚して子どももいる男性。外見的にも、ごく平凡。(中略)これがリアルな”痴漢パーソナリティ”です。(p32より引用)

そして平凡な男性が、仕事や人間関係でストレスをかかえる中、ふと電車が揺れた瞬間に女性にたまたま触れてしまい、「責められなかった」という成功体験から痴漢行為にのめり込んでいく…という典型例が記載されています。

典型的には痴漢は性欲解消ではなくストレス解消が目的とのこと。本書では、日本の長時間労働が要因のひとつになっているとの指摘もされています。

 

「女性も喜んでいると思った」

第3章では痴漢に共通する認知のゆがみについて説明されており、正直言って読んでいると気分が悪くなりました。もし痴漢被害を経験した方がこの本を読まれるとしたら、第3章、特にp90は非常に不愉快な思いをすると思うので気を付けてください。

そして再犯防止プログラムにおいて「痴漢行為を手放すことで、あなたが失ったものはなんですか?」と聞かれた痴漢加害者が「生きがい」と答えたことには衝撃を受けました。

 

痴漢を1件でも許さない社会に向けての具体策

本書の最終章では痴漢通報ボタンなどの具体的な提案もされています。駅構内に貼られている痴漢防止ポスターは電車内に貼られなければ意味が無い、というのはとても納得しました。そして「初めての逮捕」で治療につなげることの重要性も書かれています。

最近、電車内で女子高生に痴漢行為をした東大生のニュースがありましたが、彼はこれが3回目の逮捕とのこと。1回目の逮捕できちんと治療につながっていれば、新たな被害者を出さずに済んだのではないかと思うと悔しいです。(きっと逮捕にいたらなかった痴漢行為が3回以上あるのだろうと想像しています)

本書内では薬物療法も提案されています。

カナダやフランスをはじめとする性犯罪対策の先進国では、薬物療法を受けることが義務付けられています。前述したように、定期的な血液検査によって血中濃度を測り、服薬しているかを確認し、きちんと飲んでいないことがわかれば刑務所に再収監されます。私は日本でも、こうした強制的な治療制度が、保護観察期間だけでも必要だと考えています。(p204より引用)

 

痴漢加害者の治療プログラム

加害者が通う治療プログラムについても詳細に紹介されており、とても勉強になりました。とくに私が興味深いと思ったのは、複数の加害者が参加するグループミーティングについて。

新しい参加者は、通院歴が長い”先行く仲間”の話を聞いて、どのようにやめつづけているのかを学び、古い参加者は新しい参加者の姿や話を見聞きするうちに、過去の自分自身や逮捕された前後の記憶がよみがえってきて初心に戻ることができます。(p218より引用)

 

 そして希望が持てるなと思ったのがこちら。何と治療は保険適用です!

現在のところ、当クリニックのプログラムに3年以上通院している長期継続群で、再犯した者の数はゼロです。性依存症の治療に”完治”はないと前述しました。(中略)目安は3年間ですが、治療は長期間に及びます。最長で8年以上、再犯防止に取り組みつづけている者もいます。(p238より引用)

 

痴漢行為をしている人へ

もしもいまこのブログを読んでいる方で、痴漢行為をしている人がいたら、本書p244「男が逮捕されて、妻、母、父は加害者家族になる」の章を読んでほしいなと思います。痴漢は依存症なので、ご自身の意思だけでやめるのは難しいかもしれません。そして続けていればいつかは逮捕されて自分と家族の人生に大きなダメージがあるかもしれません。依存が進む前に適切な治療につながってほしいです。

著者が勤務する大森榎本クリニックでは痴漢等の性依存の治療プログラムを実施しています:性依存デイナイトケア|【精神科・診療内科】 榎本クリニック|池袋 新大塚 飯田橋 御徒町 大森 小岩 | 榎本クリニック

特に既婚男性について

痴漢加害者男性は、妻に「痴漢さえしなければ、いい夫なんです」と言われる人が多いとのこと。そして「婚姻関係を継続するための条件」「子どもと一緒に住むための条件」と妻から治療を提案されてクリニックを受診するのが典型だそうです。

・何年経っても妻は夫が逮捕された日を忘れない

・妻の抑うつ状態、不眠、食欲不振、自傷行為などの「生き地獄」

・それまでの夫婦関係が良好であればあるほど、落ち込みは大きい

・性生活の再開は望めないようです

もし自分が痴漢加害者の妻の立場になったら…と想像してみようとしましたが、悪夢だなと思いました。

 

痴漢依存治療における父親の役割は大きいらしい

精神科が取り扱う病気(うつ、統合失調症、引きこもり、各種依存症など)の治療に父親が参加することは珍しいそうです。しかし、

父親が治療に参加すると当人の回復率が上がるということは、エビデンスもあり依存症治療の世界ではよく知られていることです。痴漢の再犯防止においても、父親の変化は重要な転機となります。(p262より引用)

とのこと。 父親の役割は大きいようです。

 

痴漢と、痴漢冤罪とは、まったく別の問題です

もし男性でここまでブログを読んでくれて「でも冤罪があるではないか」とモヤモヤしている方がいたら、本書p270~276を読んでください…。映画『それでもボクはやってない』にも触れられています。

「人を殺してはいけないよね」といった人に対して、「でも殺人も冤罪事件があるからさ」という人はいないでしょう。(p271より引用)

今まで何度か男性に痴漢の話をして、反射的に「でも冤罪が」と言われることがありました。痴漢行為をしたことのない男性にとっては痴漢といえば冤罪が一番怖いんだろうな、というのはよくわかります。でも、痴漢=冤罪、と反射的に結び付けないで私の話を聞いてほしかったな、とは思っています。

 

まとめ

あまりまとまらないブログになってしまいました。私自身、記憶にある限りでは小学1年生の頃から社会人になるまで、様々な形で痴漢の被害を経験しました。

本書は「おそらく日本で初となる『痴漢』について専門的に書かれた本」とのこと。

痴漢する側の心理や、痴漢が依存症であること、治療の困難さ、治療の重要さ、痴漢の防止策など、初めて知ることが多く、とても勉強になる一方で、読み終える頃には精神的に大変疲れました。思い出したくないことをたくさん思い出しました。

そして、痴漢大国と呼ばれる現状をどうにかしなくてはならない、という気持ちがわいてきました。私は最近はもっぱら女性専用車両に乗るようにしていることもあり、痴漢については昔ほど考えなくなっていました。でも、本書を読んだことで、今でも痴漢行為が毎日発生しており、(痴漢は、逮捕までの間に、本人ですら数え切れないほどの痴漢行為を重ねてきているそうです)それによって一生のトラウマを抱える被害者もいるということを再認識しました。

痴漢を1件でも許さない社会にするために、とりあえず私にできることはみんなにこの本を勧めることかな、と思っています。『男が痴漢になる理由』、是非読んでください。

また、今まさに痴漢被害に悩んでいる方は、(ご存知かもしれませんが)警視庁の防犯アプリ『デジポリス』が役に立つかもしれません。

www.huffingtonpost.jp

 

さらに、痴漢レーダーというアプリを使うと、痴漢被害者&目撃者が痴漢情報を共有できるそうです。

chikanradar.qccca.com

 

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