おたまの日記

都内で働く二児の母(東大法学部卒)が、子育てしながら考えたことや読んだ本、お勧めしたいことを書いてます。

米国の移民国籍法について

「S.386/H.R.1044」が何だか分かりますか

いま米国で最もホットな話題(と勝手に言い切ります)、S.386/H.R.1044についてです。この話題は日本メディアでは全く報道されていないようなので、私のような素人であっても日本語で概説することにある程度価値があるのではないかと思っています。

Twitterでは悲鳴のようなつぶやきが両陣営から続々と上がっており、これは日本に住む日本人としても動向を注視せねばと思っています。

 

論争の中心になっているのは米国の永住権、いわゆるグリーンカードです。

今回の問題を一言でいうと、「インド人と中国人がグリーンカードをめぐって大変な争いとなっている。実は日本人にとっても他人ごとではない」ということです。

S.386/H.R.1044は、移民国籍法の改正法案を指します。

 

これまでの状況

・就労ビザ(特に今回問題なのがH-1B )を持つ外国人が米国の永住権(グリーンカード、以下GC)を取得するには国ごとの割合の上限が定められていた(移民の多様性のため)。

・具体的には、ひとつの国からGCを取得できるのは、年間GC取得者総数の7%まで(そして年間8万人しか取得できないので、ひとつの国からは5600人が上限となる)

※細かく言うと、H-1B保持者の永住権取得には「EB-2」と「EB-3」の2つの部類があり、それぞれ年間4万人しか取得できない。

・現在も、多くのGC取得希望者が、申請に多大な労力とお金(数十万円)をかけながら、長年「待機」している。日本人でも3年待ち(参照)。

・人口が多い国は不利で、待機時間がもっとも長いのはインド人(申請数が多いため)。EB-2とEB-3で待機しているインド人の総数は60万人程度であり、ひどい人は70年待ち、100年待ちの状況。(この記事によると、最長151年待ち!)

                                                                                                                              

今回の状況

・改正法案(S.386/H.R.1044)によって移民国籍法(Immigration and Nationality Act)を改正し、国ごとの上限を廃止しようとしている

・改正の趣旨は高度スキル人材をより平等に受け入れること(出身国に関係なく、申請された順にGC取得手続きが進むのが平等であるという考え方)

・ただし、「現時点での待ち」を解消するのに10年かかるため、この10年間の間はGCを新たに申請した人は決してGC取得できなくなる

・そして、結果的に、既に申請している人数が多いインド人が一斉にGC取得することが予想される

・法案改正が成立した場合、2022年までの移行期間を経て、2023年から2028年まではほぼ現在申請済のインド人以外のGC取得が不可能になる(下のグラフ参照)

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HR.1044/S.386による改正が成立した場合のGC取得分布予想

グラフの引用先はこちら:

Please Take 5 min to Read What is at Stake on Immigration Bill S.386. It Could Significantly Affect You (negatively)!

 

・Twitter上では、あまりに長い期間待たされてきたインド人を中心とする「どうかS.386による改正が成立してほしい」という声と、「インド人を優遇する不平等法案であり、米国への移民の多様性を著しく毀損する」という批判の声がある:具体的に生の叫びを見たい人はハッシュタグ「#HR1044」と「#386」で検索してみてください

・9月17日(火)に急に無投票通過の動議が出された。中国人がWeChatを駆使して団結した反対運動を行い、9月19日(木)に無投票採決は流れた。10月1日(火)までに上院採決できなければ下院からやり直しになる(らしい)

→議員の事務所に電話して、「反対」「賛成」の意思表明をするのが大事だそうです。この電話の数で賛成か反対かを決める議員もいるとのこと。9月17日~19日にかけて、インド人と中国人による電話合戦があった模様です。

 

※S.386とH.R.1044は同じ改正法案を指します。これは上院(Senate)と下院(House of Representatives)それぞれに法案が提出されたからです。最終的には両院協議会で条文の統一化が行われ、両院通過後に大統領が署名して法案成立となります。

 

日本人にも影響がある

これまで、就労ビザ(H-1B )を持つ日本人は「年間5600人」の上限にかかることなくGCが取得できました。

(この上限に引っかかるのはインド人と中国人がほとんどで、たまにフィリピン人が引っかかるくらいだったそうです)

ところがS.386/H.R.1044による改正が成立した場合、日本人であってもこの先10年間はほぼGC取得は不可能になります。

イメージとしては、これまで国ごとにGC窓口が決められており、日本人の窓口はガラガラで、インド人の窓口には60万人が、中国人の窓口には数万人が並んでいました(ただし窓口での手続き自体も2~3年かかる)。今回の改正で窓口がひとつに統一され、既に並んでいる60万人のインド人と数万人の中国人の後ろに日本人も並ばなくてはならなくなるのです。

これが「平等」であると言われればそうなのかもしれませんが…。

 

反対派の主張

・この先10年間、ほぼインド人しか移民を受け入れない結果になってしまうことが米国社会の多様性にとって本当に良いことなのか?

・そもそもインド人が就労ビザ(H-1B )を過剰に取得しており、これをただ追認して良いのか? ※インド人はインド系の複数の企業から並行してビザ申請することで、H-1Bビザを「支配している」とかねてから批判されている

との観点から、改正に反対している人は多くいるようです。

私もどちらかというと反対です。

 

参考になりそうなTweetをいくつか紹介します

 賛成派

 「私はGC取得に70年待たなくてはならない。それまで生きていられるとは思えない。どうかS386/HR1044を支援してください。もしくはmerit based GCプログラムを。」

 ※merit based GC program : 移民申請者の年齢、学歴、収入で点数をつけて一定の点数以上の人に移民を許可する制度

 

反対派

「S386はただインド人を利するだけだ。H1Bビザは既に濫用されており、さらに10年間にわたってインド人のGC手続きのみ進めるのは、他のすべての国の人々にとって不公平ではないのか」(かなり意訳)

 

「S386によってインド人へのヘイトが始まりかねない。インド人は国籍のせいで待ち時間が長いのではなく、H1Bビザを濫用しているインド人が多いせいで待たされている」

 

 「もしS386がヒアリングなしで通過するようなことになれば、米国の民主主義にとって最大の冗談だ。外国の政治団体が米国の移民制度を勝手に変えてしまう…研究もヒアリングも議会での議論もおこなわずに」

 

 本件、どうなるのか引き続き動向注視します!

もっと詳しく知りたい方、英語で情報収集したい方は下記の記事を入り口にすると用語など分かって読みやすいと思います。

www.mercurynews.com

 

そして「この法案に反対したい」「自分になにかできることはあるかな」と考えた方のために、もうひとつブログを書きました。

www.shiratamaotama.com

 

【2019年10月3日追記】

9月27日にイリノイ州のDurbin議員が改正法案に反対したことで、ひとまず改正は不成立となりました。良かった!ただ、その後、改正成立してほしいインド人によるDurbin議員事務所への猛烈な陳情(電話)がなされているそうです。