先月の堺屋太一氏の訃報を受けて、著書を読んでみたくなったので読みました。
「平成30年」の日本を、平成9年の時点で予測して小説の形で問題提起するって面白いですよね。
- なぜか戦国時代を連想させる登場人物たち
- 予測が当たっているなと思うところ
- 現実の平成三十年とは違うところ
- まだ実現していないけど、実現したら面白そうな提案
- ちょっと気に入らない女性の描写
- 「楽しい日本」を目指したい
なぜか戦国時代を連想させる登場人物たち
主人公は官僚の木下和夫、大臣が織田信介、官房長が明智三郎…。名前を見ただけで、あぁ木下さんは織田に抜擢されるんだろうな、そして織田は明智に裏切られるんだろうな、と予感させられます。
予測が当たっているなと思うところ
20年も前に書かれたとは思えないほど、今の日本の雰囲気をうまく描いています。例えば、過疎化が進み、魅力を失う地方。急速な少子高齢化と、税負担の増大。ネットや口コミの力の増大。
現実の平成三十年とは違うところ
スマホは登場しません。また、フロッピーやファックスが現役で使われていたり、「ナウい」とかもはや聞いたことのない言葉が使われたりします。「ああ、この小説は20年前に書かれたんだった…」と実感します。
まだ実現していないけど、実現したら面白そうな提案
堺屋氏は、小説という形で日本社会への問題意識と解決案を提示していたのだと思いますが、私が「これは面白い!」と思った提案が2つ。「遠い隣人の会」と、「マンションと病院の一体化」です。
遠い隣人の会
小説の中では、主人公夫婦(都内在住)の両親は千葉の松戸に住んでおり、母親が怪我をしたため掃除や食事の世話をする必要が生じます。ただ、毎日通うのはちょっと辛い距離。そんなときに生活支援の交換を仲介する「遠い隣人の会」で、親の面倒を代わりに見てくれる人を探します。交換条件として、都内在住のお年寄り(と、孫)の面倒を見てあげるのです。金銭の支払いは発生せず、お互いに「面倒を見る必要がある家族」の生活支援を交換します。私があなたの父親にご飯をつくってあげるから、あなたは私の父親のご飯をつくってね、という契約。
これは面白いなぁと思いました。実際には、当たりはずれがあったり、何か事故があったときの責任問題があったり、実現は難しいかもしれません。でも、一時的にでも家族の世話を「交換」できる仕組みは良いですね。
マンションと病院の一体化
今でも訪問看護サービスつきの高齢者用マンションなどはありますが、堺屋さんの提案は「普通の病院の入院個室の隣に1DKのマンションが付属しており、入院患者の家族が住める」という新しい形の病院です。
夫が入院したときに「毎日世話に通うのは大変、でも病室にずっと寝泊まりするのはつらい」という妻が、夫の個室の隣の1DKに住むイメージです。夫婦だけでなく、子どもが入院したときの付き添いとか、入院が長期化する場合にはとても助かる仕組みだと思います。
あとは、全法令の有効期限を十年にするとか、公務員の任期を十年にするとか、びっくりするような提案が説得力ある語り口で書かれています。興味がある方は是非読んでみてください。
ちょっと気に入らない女性の描写
ここまで褒めておいてなんですが、女性の描き方は気に入らなかったです。主人公の妻は頻繁に「ふくれっ面をして夫に文句を言う」キャラクターだし、主人公(43歳既婚男性)が部下(34歳独身女性)の容姿に言及しすぎて辟易しました。形の良い唇がどうの、純白のパンツルックがどうのと、ストーリーに全く関係ない描写が続きます。女性部下を日常的に「(下の名前)ちゃん」で呼ぶ上司が平成三十年にいるんでしょうか…。
全体的には面白い小説でしたが、女性の描き方が古いのは残念でした。まぁ古い男の人が書いた小説だから仕方ないかなとは思います!
「楽しい日本」を目指したい
堺屋太一さんは「団塊の世代」という言葉を生み出した人なんですね。こちらの記事では、「『楽しい日本』を目指し官僚システムを壊せ」と語っています。
堺屋太一氏の遺言「2020年までに3度目の日本をつくれるか」:日経ビジネス電子版
小説の中でも「(特に高齢者が)本当に欲しいもの、好きなことを追求する」ことで、日本を良くできる、と書かれています。
「楽しい日本」、目指したいです。この小説で描かれているような、閉塞感に満ちた日本にはしたくない。
最後になりますが、堺屋太一さんのご冥福をお祈りいたします。