おたまの日記

都内で働く二児の母(東大法学部卒)が、子育てしながら考えたことや読んだ本、お勧めしたいことを書いてます。

『利己的な遺伝子』の40周年記念版が最高に面白いです

40周年記念版へのあとがき

学者には誤りを愉しむことが許されるが、政治家には許されない。(中略)

私はといえば、実は本書『利己的な遺伝子』の中心的な主張を撤回する道はないものかと、模索しているのである。

 (『利己的な遺伝子 40周年記念版』p449より引用)

 

あとがきが面白すぎる

これまでに『利己的な遺伝子』旧版をわくわくしながらめくった経験のあるお仲間がいらしたら、この40周年記念版のためにリチャード・ドーキンス博士が書いた「40周年記念版へのあとがき」だけでも是非お読みになることをオススメします。あとがきだけでびっしり14ページあります。

まあ私はあとがきだけ読むつもりだったのに、結局面白すぎて本編も読み返してしまったので、きっと皆さんもそうなります。さすが40年も生き抜いた名著だけあって、知的興奮の宝庫です。

世界的ベストセラーの著者本人が、40年後にまた長い「あとがき」を書いてくれる、しかもその邦訳版もちゃんと出版されるってすごいですよね。

 

訳者のあとがきも絶対に読むべき

そして「40周年版への訳者あとがき」も絶対に読んだ方が良いです。これはたったの3ページですが、「えええ」と思うようなことが書いてあります。日本で初版が邦訳刊行された1980年当時、この本が『生物=生存機械論』という不思議な邦題で刊行された経緯が書かれています。ちょっと引用します。

そんな状況の元に<利己的な遺伝子>などという挑発的なタイトルの書物が世界的流行の権威を笠に着て登場すれば、門外漢が押し寄せ、誤用・悪用・混乱が跋扈することは必定と思われたのである。そこで、科学社会学の徒でもあった岸が思いついたのが、「まずは研究者にしか魅力的に見えないようなタイトルで出版する」という提案だった。新しい方法を批判的に理解し、研究に活用できる若手が育つまで、誘惑的な原題(=利己的な遺伝子)で出版するのはしばし諦めてほしいと懇願し、編集部の理解を得た。

(『利己的な遺伝子 40周年記念版』p555〜556より引用)

これ、すごくないですか…?もっと売れそうなタイトルがあるのに、日本の生態学がこの本を適切に受け止めるほど成熟していないという現状認識から、あえて「売れなさそうな」タイトルをつけたということですよ。

初版発行から11年後の1991年に、ついに改訂版を『利己的な遺伝子」と改題して刊行したら売り上げが爆発的に伸びたとのこと。そして、ちゃんとこの11年間で「社会生物学の起こした波紋はある程度整理されていたので、大きな問題にはならなかった」と書いてあります。

感動しました。

 

私は10年以上前に読んだことがありました

私が初めて『利己的な遺伝子』を読んだのがいつだったのか、明確には覚えていないのですが…。おそらく中学生か高校生だったのではないかと思います。当時の私にはとても難しくて、でも面白くて面白くて、ページをめくるごとに自分の目に見える世界が今までとは違って見えるような興奮を覚えたような記憶があります。

世の中には謎があふれていて、こういう賢い人たちが仮説を立てて検証したり議論したり人を紹介しあったりして、謎を解き明かそうとしているんだ。読者の理解を促すために具体例をあげたり、いろんな例え話をしたりするんだ。その例を理解するためには私にも教養が必要なんだ。もっと知りたい、この議論に私も参加したい、と思った(ような気がします)。

 

先日、書店で『利己的な遺伝子 40周年記念版』が積まれているのを見てびっくりしました。もう40年も経つんだ、40年も経つのにまだ新版が出版されるんだ、なんて分厚いんだろう、なんて魅力的なんだろう!

※40周年記念版の初版は2018年に発行されていますが、私はこの2年間全く気づきませんでした

私たちはなぜ、生き延びようと必死になり、恋をし、争うのか?本書で著者は、動物や人間の社会で見られる、親子間の対立や保護行為、夫婦間の争い、攻撃やなわばり行動などがなぜ進化したかを、遺伝子の視点から解き明かす。自らのコピーを増やすことを最優先にする遺伝子は、いかに生物を操るのか?生物観を根底から揺るがし、科学の世界に地殻変動をもたらした本書は、1976年の初版刊行以来、分野を超えて多大な影響を及ぼし続けている古典的名著である。

 (『利己的な遺伝子 40周年記念版』Amazon内容紹介より引用)

 

今回読み返して特に面白いと感じたところ

前回読んだ時よりも私が「翻訳された文章」を読み慣れたことや、色々な知識が増えたことから、読みやすさは格段に増しました。また、自分が未成年の学生だった頃に比べて、母親になった今では、「面白い」と感じる点が変わったなあと思います。

例えば、なぜ女性は閉経する(生殖能力を突然失う)のに、男性の生殖能力は次第に衰えていく形を取るのか、についての説明が面白かったです。

(前略)自然状態の女性は、年齢を重ねるに連れて子育ての効率が漸減したはずだ。このため、高齢の母から産まれた子どもの平均寿命は、若い母親の子どもの寿命に比べて短かっただろう。これは、仮にある女性が、自分の子どもと孫を同じ日に授かったとすると、孫のほうが子どもより長生きすると予想されることを意味している。自分の産んだ子どもが成体に達することのできる平均確率が、同い年の孫のそれのちょうど二分の一をきる年齢に女性が到達すると、子どもよりむしろ孫のほうに投資させるように仕向ける遺伝子が有利になるだろう。(略)

男性は個々の子どもに対して、女性ほど大きく投資することはない。(中略)もし男性が若い女性に子どもを産ませることが可能なら、たとえ彼が高齢の男性であっても、孫に投資するより自分の子どもに投資したほうが常に有利であろう。

(『利己的な遺伝子 40周年記念版』p224〜225より引用)

 ※これを読んで不愉快になった方のために追記しますが、「男性が女性ほど子どもに投資しない」というのは、卵子の方が精子より栄養を備蓄している、哺乳類の場合には体内で胎児を育てるのも乳を与えるのも雌である、などの意味です。父親が主に子どもの世話を担う動物もいるし、人間一般に「男性が女性ほど子どもに投資しない」と言っているわけではないです。それでも言い回しが気になる方はぜひ本書を読んでください。

 

私が以前この本を読んだときは独身で子供もいなかったので、この辺りの記述は「ふーん」と思いながら読んでいたと思います。今は子育て当事者として色々考えることもあるし、まだまだ社会全体で見れば家事育児の負担が女性側に偏りがちな現状を見聞きしているので、前に読んだ時とはまた違った関心を持って読み進めています。 

 

すっごくわくわくしたところ

この本は遺伝子の話ばかりしていると思いきや、「ミーム」についてまるまる一章をかけて語ります。ミームは「文化の伝達の単位」あるいは「模倣の単位」という概念を伝える名詞であると定義されます。最近だと「インターネット・ミーム」などと言われることもありかなり人口に膾炙していると思いますが、この「ミーム」という単語を生み出したのはこの本の著者であるリチャード・ドーキンス博士です。

私たちが死後に残せるものが二つある。遺伝子とミームだ。(中略)遺伝子機械としての私たちは、三世代も経てば忘れ去られるに違いない。(中略)

しかし、もし私たちが世界の文化に何か寄与することができれば、たとえば立派な見解を述べたり、作曲したり、点火プラグを発明したり、詩を書いたりすれば、それらは、私たちの遺伝子が共通の遺伝子プールの中に雲散霧消して去ったのちも、長く、変わらずに生き続けるかもしれない。

(『利己的な遺伝子 40周年記念版』p 342〜343より引用)

私は前回この本を読んだときには「ミーム」という概念を知らなかったので「ふーん、この著者はミームという言葉を新しく作ってまで文化の伝達を語りたかったんだな」と思っていたのですが、その後あちこちで「ミーム」という言葉が使われているのを知って、今回改めてこの本を読み返したことで「おおお、ミームはこの本のこの部分から生まれた言葉だったんだ…!」と感動しました。私も死後にミームを残したいです。

 

おまけ:毎晩少しずつ読みました

3歳長男と2歳次男と一緒に寝室に入り、絵本を何冊か読んであげた後は部屋を薄暗くして、「お母さんは本を読むから寝てくださ〜い」と言って本を読んでいます。たまに音読を求められるので読みあげますが、特に長男は興味津々で質問をしてきます。

長男「遺伝子ってなに?」

私「えーと、長男くんの体を作っている、とっても小さいつぶつぶの中にある設計図のこと…(自信がない)」

長男「生存機械ってなに?」

私「えーと、生きている機械…遺伝子の乗り物…」

長男「はたらく乗り物ってこと?」

私「そうです!(投げやり)」

 

利己的な遺伝子を読み通すのに3週間くらいかかったのですが(夜しか読まなかったので)、この間にすっかり長男と次男は「この赤くて分厚い本は、お母さんが寝るときに読む本」「いでんしという言葉がたくさん出てくる」「絵は描いてないけど、お母さんにはすごく面白いらしい」「大人になったら自分も読むぞ」という認識になったようです。

きっと息子たちが読む頃には50周年記念版が出ているだろうと、今から期待しています。

リチャード・ドーキンス博士は1941年生まれの79歳。まだまだ長生きしていただきたいです。

 

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