おたまの日記

都内で働く二児の母(東大法学部卒)が、子育てしながら考えたことや読んだ本、お勧めしたいことを書いてます。

塾に行ってみたくなった。森絵都「みかづき」

森絵都『みかづき』を読みました。久しぶりに小説を読んで泣きました。

 

 今年の1月にNHKでドラマ放映していたそうですが、私はドラマは見ていません。ドラマの評判が良かったそうで、見逃したことが悔しくなったので原作小説を読みました。

 

小説の概要(ネタばれ無し)

この小説は、学習塾というものが無かった時代(昭和36年)に、学校の授業についていけない子供たちのために塾を創設するところから始まります。塾に通うことが「恥ずかしい」と考えられていた時代があったんですね。

その後、戦後のベビーブームや高度経済成長の時流にのって塾産業は急成長。補習塾ではなく進学塾が主流になっていきます。そしてゆとり教育によって公立学校の授業が減らされていく中、エリート養成の役割も果たし始める塾。

2000年代に入ると、学校の授業についていけない、でも経済的に塾に通えない、そして働く親(特にシングルマザー)は忙しくて勉強をみてあげる余裕がない、という子供たちが社会問題となっていきます。

 

半日ほどかけて一気に読み終えたんですが、読後感がすごいです。1960年から2018年までの日本の教育環境の変遷と、ある家族の4世代にわたる波乱に富んだ物語とが、自分の頭の中でわんわんと鳴り響いているようです。教育に関心のある方には大変おすすめの小説です。

というか、1960年から2018年の間に日本で義務教育を受けたことがある人(つまり、ほとんどの日本人)なら、この小説のいずれかの部分で「ああ、自分の時代の話だ」と感じると思います。

 

過去記事で少し書いたとおり、私自身は塾に通ったことはありません。

www.shiratamaotama.com

 

でも、この小説を読んで、塾に行ってみたくなりました。

 

ゆとり教育(エリート教育)について

私は1988年生まれで公立小中学校に通ったので、まさにゆとり世代(1987年4月2日~2004年4月1日生まれ)です。

小説の中で「ゆとり教育の言い出しっぺ(教育課程審議会)の会長の発言」が引用されるのですが、どうもフィクション小説らしくないなと思ったら、この部分はノンフィクションでした。巻末の参考文献リストにある『機会不平等』という本に詳しく書いてあります。

この発言は、実在の三浦朱門・前教育課程審議会会長のものです。少し引用します。

学力低下は予測しうる不安と言うか、覚悟しながら教課審をやっとりました。いや、逆に平均学力が下がらないようでは、これからの日本はどうにもならんということです。つまり、できん者はできんままで結構。戦後五十年、落ちこぼれの底辺を上げることにばかり注いできた労力を、できる者を限りなく伸ばすことに振り向ける。百人に一人でいい、やがて彼らが国を引っ張っていきます。限りなくできない非才、無才には、せめて実直な精神だけを養っておいてもらえばいいんです。

(中略)

それが“ゆとり教育”の本当の目的。エリート教育とは言いにくい時代だから、回りくどく言っただけの話だ。

『機会不平等』p49~50より

小説では、この発言に対し「ゆとり教育によって、エリート以外は確信犯的に切り捨てられる。そして、素質もやる気もあるのに、家にお金がないから授業についていけない子どもも切り捨てられる」と憤慨しています。

 

私が中学2年生のときに「ゆとり教育」が施行されましたが、確かにあの頃、ゆとり教育を受けていたらダメになる、ゆとり教育をしない私立の小中学校に行ったほうが良いという風潮があったと思います。私は土曜日が完全に休みになって嬉しかったような記憶がありますが。

結局、学力低下が問題になり撤回されたゆとり教育ですが、国の政策が右往左往する中、公教育から取り残されていく子供たちを救う役割が塾にはあったのだということを私はこの小説を読んで初めて認識しました。

 

息子たちが塾に通うとしたら

私は幸運にも学校の授業との相性がよいタイプで、担任の先生たちも教科書以上のことを教えてくれる先生が多かったので、塾に行けなかったせいで不利益を被った実感はありません(私の親は「うちには塾に通わせるようなお金はないからね!」という感じだったので、私は塾には通ったことがないです)。

ただ学校の先生って当たり外れがありますよね。私は小学生の頃に担任の先生を替えてほしいと署名活動をしたことがあります。それが良いことだったかどうか分かりませんが、まともな授業を受けたい一心でした。


ですので、もし息子たちが学校の授業についていけないとか、授業が面白くないという場合には、ためらわずに補習塾を探してあげようと思います。自分が塾無しで大丈夫だったからといって、息子たちもそうとは限らないな、と。そして、この小説を読んだおかげで、塾に対する抵抗感が無くなりました。

また、そもそも自分が公立小中高に通っていたため、小学校受験や中学校受験については全く知識がないですが、地元の小学校や中学校が荒れていたりしたら、私立も検討しないとな、とは思います。その場合は進学塾に行くのかな。

もし将来、息子たちが補習塾なり進学塾に通うとしたら、この小説の吾郎先生のようなわくわくする授業をしてくれる先生がいるところを探したいなと思っています。

 

みかづき、とても良い小説だと思いますので、是非読んでみてください。