おたまの日記

都内で働く二児の母(東大法学部卒)が、子育てしながら考えたことや読んだ本、お勧めしたいことを書いてます。

息子たちが性に興味を持つ年齢になったら読ませようかな。エイラシリーズ。

勝間和代さんが著書で絶賛していた小説『エイラー地上の旅人』シリーズを読みました。

この小説は本国のイギリスでは『ハリー・ポッター』シリーズに負けないほど有名なのですが、日本ではなぜかあまり知られていません。この小説の主人公エイラはクロマニヨン人の女性ですが、地震にあって一族が全滅してしまい、自分をたまたま拾ってくれたネアンデルタール人の一族に育てられます。

エイラは女性であることの差別、人種差別の両方を背負ってその幼少期、大変な苦労をするのですが、逆にそのような差別を逆手にとって、様々な工夫を重ね、ネアンデルタール人とクロマニヨン人の知恵をうまく融合し、困難を乗り越え、周りの人を味方にしながら力強く成長していくのです。

(引用:勝間和代著『効率が10倍アップする新・知的生産術』)

 

超長編です

 冒頭にさらっと「読みました」と書きましたが、実感としては「ついに読み終わってしまった」という感じです。この小説、古くてKindle化されていない(原作の初版は1980年、日本語の完訳版は2004年~2013年にかけて出版)上に、ハードカバーで1冊が3~4㎝ある上に、全部で16巻もあるのです。積み上げたら60㎝くらい。。近所の図書館で借りてリビングに積んでいたのですが、家族からは「山」と呼ばれていました。

 

(真面目な)性描写が多めです

そして読み終えて思ったのは、息子たちが性的なことに興味を持つ年齢(中学生くらい?)になったら、もう一度図書館で借りてきてリビングに積んでおこうかな、ということでした。

このシリーズは著者いわく「もともと大人の読者のために書いた」そうですが、日本で最初に翻訳されたときは青少年向けに表現をだいぶ削られたとのこと。完訳版を読んでみて大変納得しました。これは児童に読ませても意味不明であろう箇所(=男女の営みの描写)が多い。。しかも割と濃厚(途中ちょっと食傷気味になった)。。でも女性目線の性描写をこれだけ真面目に書いてる小説(かつ我が子に読ませられる内容)は珍しいし、自分本位な行為ではなく、2人で気持ちよくなるんだよというメッセージが強烈なので、息子が妙な男性向けコンテンツとかに洗脳される前に読ませておきたいかな。

 

ネアンデルタール人とクロマニヨン人の違い

ネアンデルタール人(滅びゆく人種)とクロマニヨン人(現代人の祖先)が共存している時代の小説なのですが、この2つの人種の違いがとても面白いのです。

・ネアンデルタール人は男尊女卑的な社会で、男女の営みは「男の欲望を満たす」もの。男が求めたら女は拒めない。女は男を常に観察し、求めているもの(飲み水とか)を言われなくても察して黙って用意するべき、とされている。話し言葉が発達しておらず、主に身振りで意思疎通する。医学に優れており火を使いこなすが、衣服や道具は実用性のみを重視。

・クロマニヨン人は男女同権的な社会で、リーダーの役割につく女性も多い。男女の営みは「男女が歓びを分かち合う」ものとされていて、合意なく女を犯す行為は犯罪。実験や話し合いによって新たな知識を得ることに長け、「余暇」がある(壁画や装飾品制作が活発)。ネアンデルタール人を人間ではなく動物(下等種族)だと考えている。

なお2つの人種が交配した子どもも極まれに産まれます。2019年現在、現代人の遺伝子の数%はネアンデルタール人由来だという研究が進められているようですが、これを1980年に書いた著者、すごい。

 

この本は、すごい

著者のジーン・アウル氏の力量が素晴らしいと思うのは、まるでドキュメンタリーを見ているようなリアリティで3万5千年前の人間社会を描いているところです。

ネアンデルタール人の墓地から花粉が見つかった(=花を供えて埋葬されていた?)という事実に着想を得て、クロマニヨン人の洞窟壁画(cf.ラスコー洞窟)を物語に取り込みつつ、こんな胸踊る長編小説を編み出してしまうジーン・アウル氏の脳みそには感服しました。

 

とくに面白かったところ

とにかく長いので、前半で感動したところの記憶がちょっと薄れつつあるのですが…全編を読み通して「いやぁこれは面白かったなぁ」と思っているのは

・とにかく登場人物たちの生命力が強い。私がいま大自然に放り出されたら絶対死ぬな…という危機感を覚え、読み進めるうちに、生き抜くための知恵(狩りの仕方、火おこし、食べられる植物の採集の仕方など)を学んでしまう。

・まだ家畜の概念がない時代に、主人公が(偶然から)狼や馬を飼いならし、ほかの人々を驚愕させる。実家で飼っている犬をしみじみ眺めながら、人と犬の歴史に思いをはせてしまった。うちの犬は狩りの役には立たなさそうだけど。

・「子どもたちの世話をすることは、―それがたとえ自分の子どもであれ―共同社会への”借り”を返す行為だった。なぜなら子どもたちは、いまの社会がこののちもつづくことを約束する存在だからだ。」これは、いま子育て中の自分にはグッときた。私がいま家に引きこもってオムツとオッパイで24時間過ぎているのも、社会貢献なのだ。3万5千年前の社会なので、科学技術や様々な知識こそ未発達だけど、人々の思慮深さや相互扶助の仕組みなど、現代に劣らない、もしくは現代よりも優れているところさえあると感じた。年寄りも親のない子も障害者も呑んだくれも、誰ひとり飢えさせない、とか。

・男女の営みと妊娠の因果関係が知られておらず、子どもは女の体内で発生するものだと思われていた。最終巻で「妊娠には男女の営みが必要」という知識が新たに「発見」されたときの、人々の驚きや戸惑いがすごい。新しく「父親」という概念が発表される演説をちょっと長いけど引用すると、「父親、それは子どもをもっている男に与えられる呼び名です。新しい命の芽吹きには男の存在が欠かせません。たしかに男は体内で赤ん坊を育てもしませんし、赤ん坊を産むことも、乳を飲ませることもできませんが、母親に一歩もひけをとらないほど子どもを愛することはできます。子をもつ男は”Far Mother”、すなわち”Father”。」これは感動した。

 ・クロマニヨン人の一族では、リーダー的な立場にいる女性の多くは独身、もしくは子どもがいない。一方、リーダー的な立場にいる男性の多くは既婚子持ち。役職を持つ女性は忙しく、妊娠・出産や家族の世話をしている時間的余裕がないことが主因なんだけど、主人公エイラは夫と子どもがいながら主導的な立場に昇り詰めていく。そこには本人の能力・努力だけでなく、夫と周囲の献身があるわけなんだけど、これはもう3万5千年前の欧州でも、1980年の米国でも、現代日本でも、働く女性共通の課題なのだ。

 

著者は高IQで5児の母(ご存命)

著者のジーン・アウル氏(Jean Marie Untinen Auel、現在82歳)はフィンランド系米国人で、5人の子供を持つ母親。MBAホルダーで、Mensa会員(人口上位2%のIQを持つ人だけが会員資格を持つ世界最大規模の高IQ団体)でもある。この小説を執筆するために膨大な資料を読み込み、現地調査を行い、世界中の考古学者、人類学者、古生物学者の協力を得たとのこと。

エイラシリーズがあまりに面白かったので、彼女が書いた他の本も読もうと思ったのですが、残念ながらこれ以外には著作は無いようです。彼女の想像力と労力、気力のすべてがエイラシリーズにそそぎこまれてるわけですね。

 

オススメです

読み始めたが最後、止まらなくなると思うので、時間のある時に読み始めることをお勧めします。